597: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/11/30(月) 22:02:33.37 ID:KnL3hUx3O
「エストラーダ候……」
プルミエールが呟く。あれが、か?
2人の男まで、まだ50メドほどある。ただ、どちらがエストラーダかは大体分かった。
法服に身を包んでいるのがアヴァロンだろう。とすると、もう片方……ボロボロの服で、背中から枝か何かを生やしているのが、エストラーダか。
俺は彼には会ったことがない。ただ、保守派ではあるものの比較的マトモな男とは聞いている。今の、まるで怪物じみた人物とは、全く重なりあわない。
ビシュウッッッ!!!
遥か向こうから、枝が投げ槍のように飛んできた!?それはプルミエールに向かっていく。……まずいっ!!
ザンッ
「え」
「言ったはずだ、早くしろっっ!!ここは俺が何とかするっっ!!」
追撃のように向かってくる「枝の触手」を、俺は短剣で叩ききる。
「……分かった」
一瞬躊躇した後、プルミエールが頷く。去り際、「死ぬんじゃないよ」とデボラが言い残した。
もちろん、死ぬつもりはない。俺が逃げるだけなら、多分「加速」を使えば容易いことだ。
ただ、ここで足止めしないと、身体能力は普通の女に過ぎないプルミエールは危うい。まして、あのメディアという女が戦えるとも思えない。俺が時間を稼ぐだけ稼がないと……!
遥か向こう、アヴァロンが不機嫌そうに顔を歪めたように見えた。エストラーダは無差別に「枝の触手」を伸ばし、逃げ惑う人々を絡め取っている。
そして、絡め取られた人々は……
「がああああっっっっ………」
10メドほど先で、枝に捕まった男がみるみるうちに萎んでいく。よく見ると、あちらこちらに皮と骨だけになった死体が散乱していた。
「チッ」
捕まったら死ぬ、ということか。それにしても、これは……惨い。惨すぎる。
俺の腹の中から、灼熱の何かが込み上げてきた。
「アヴァロォォォンッッ!!!!」
叫びと同時に触手が5本飛んできた。俺は「2倍速」を発動し、それを交わす。服が、僅かに破けた。……2倍じゃ足りないか!?
「加速(アクセラレーション)5!!!」
俺は5倍速に切り替えた。前は精々数秒しか持続できなかったが……今なら、30秒は持続できる!!
10本以上の触手が、一気に俺に襲い掛かる。1本の動きは「遅い」。しかし、数があまりに多い。
剣を振るい枝を叩き斬りながら、俺はジグザグに動いて一気に距離を詰める。
残り40メド……30……20……10…………!!!
アヴァロンの顔が、ハッキリ見えた。その顔は驚きで見開かれている。……獲れる!!
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