魔王と魔法使いと失われた記憶
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567: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/11/22(日) 14:19:41.75 ID:Y/Qr2n33O
窓からの潮風が、私の髪を揺らした。陽射しは強いけど、このお蔭で存外過ごしやすい。

エリックは静かに本を読んでいる。シェイド君たちが出かけてから、ずっとこんな具合だ。

「あいつ、意外と読書家なんだな」

お茶を飲みながらカルロス君が言う。窓際にいるエリックは返事を返さない。

「確かに……時間があると寝ているか本を読んでるかですね。魔術書が多いですけど」

「……そうなのか」

複雑そうな表情で彼がエリックを見る。私はカップを置き、窓際に向かった。

「何の本を読んでるの?」

「これだ」

「……『マイク・ダーレン自伝』?マイク・ダーレンって、確か」

「ダーレン寺開祖だ。武の真髄を振り返りたい時には、いつも読むようにしている」

「私も読んでいい?」

エリックは一瞬無言になった。断られるかと思ったけど、机に積まれている中から一冊の本を渡された。

「これなら理解しやすいだろう」

「あ……ありがと」

手渡された分厚い本には「放浪記」とある。どういうことだろう?

「開祖ダーレンが世界各地を回った時の旅行記だ。武人でなくても、暇つぶしにはなる」

マイク・ダーレン。300年前にロワールに武人たちの聖地「ダーレン寺」を開いた伝説の人物だ。
その人物像は謎に包まれている。こんな自伝があることなんて、初めて知った。

「開祖ダーレンって、どんな人だったのかしら」

「武人にして魔術師、哲学者にして冒険者だったらしいな。本来は皆伝を受けていないと読ませてはいけないが、この際いいだろう」

「え」

「まあ読めば薄々分かる」

羊皮紙に書かれた文字はかなり達筆だ。ただ、読みにくいというわけでもない。
文章自体も小説家が書いたかのように滑らかで美しい。情景が目に浮かぶかのようだ。

中身は当時の世界各地の情勢や風物、人々の営みを中心に書かれている。時折挟まる武術への考察が非常に面白い。
300年前も、世界はあまり今と変わらない。貧富の差や権力者の横暴、それでも生き抜こうとする庶民のしたたかさ。
そして、ダーレンという人は常に弱者の側に立っていた人だったらしい。

興味深く読んでいくと、ある所で手が止まった。


「……え?」




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