魔王と魔法使いと失われた記憶
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564: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/11/22(日) 14:11:06.61 ID:Y/Qr2n33O

「……くっ……にゃっ!!?」

シェイドの目に精気が戻ってきた。彼は慌てて飛び起きる。

「何やってるにゃ!!逃げなきゃ……」

「多分、もう大丈夫さ。『時間遡行』で肉体を少し元に戻したから、体力やマナと同時に記憶も戻っちゃったみたいだね」

周囲を見渡す。「蜻蛉亭」のすぐ近くだ。

「……すまなかったね……あたしのせいで、こんなことに」

「いいにゃ。ボクに親はいないけど……ご主人やアリスさんが殺されてたら、同じことをしたと思うにゃ」

「ありがとう……一生恩に着るよ」

「ボクこそにゃ。あれは切り札だけど、反動も大きいにゃ。
……治してくれて本当に助かったにゃ」

ニッと笑うシェイドの頭を、思わず撫でた。

「意外といい奴だね、あんた」

「じゃあ後でおっぱい……あだっ」

あたしはシェイドの頭に拳骨をくれてやった。

「冗談とは分かってるけど、そんな余裕はないよ。これから、どうするんだい?
エリックたちと合流しようにも、大分距離がある。何より、オーバーバックと次に会ったら……」

「……エリックたちとは後でにゃ。今戻ったら、まとめて一網打尽にされかねないにゃ」

「なら、どうしてここに……あっ」

そうか、闇雲に逃げてた訳じゃないのか。蜻蛉亭には、今テルモンの皇子がいる。オーバーバックが何者かは知らないけど、あそこにいれば少なくとも暴れることはできない……!

あたしの様子を察したのか、シェイドがニヤリと口の端を上げた。

「さすがデボラ姉さんにゃ。理解したみたいだにゃ」

「時間には少し早いけど、あそこで待つことはできる。オーバーバックに気付かれたとしても、皇子の手前荒事には及べない……考えたね」

「にゃ。むしろ問題は帰りにゃ。あいつはボクらを見逃すとは言ってたけど、どこまで本当かは謎にゃ。こればかりは運否天賦にゃ」

運次第、か。でも、選択肢はない。

「行くよ」

あたしは「蜻蛉亭」の呼び鈴を鳴らした。



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