552: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/11/18(水) 23:02:56.47 ID:lSBzGI7SO
奴は一直線にこちらに向かってきた。ニヤニヤとした、気持ち悪い笑みを浮かべながら。
逃げるかどうかを逡巡する暇もなく、奴はボクらの隣の席に座った。
「暑いなぁ」
……気付いている?それともただの挨拶?
デボラさんが探るように言う。
「……まあ、 南国だからねえ……何か、用かい」
「ククク……いいねぇ、すぐ逃げないのは修羅場潜ってるなぁ」
「……あたしらを狙って来たのかい」
微かに声が震えている。
そもそも、どうしてボクらがここにいることを奴は知ったんだ?
それに答えるかのように、ニタァとオーバーバックの笑みが深くなった。
「品定めさぁ……。面白い気配を感じたんでなぁ。雑魚ならすぐに狩るつもりだったが、これは『太らせて』から狩るのが正解だぁ……」
何を言っている??確実に言えるのは、こいつはボクらの居場所を何かの方法を使って知っている、ということだ。
……冷や汗が額を伝ったのが分かった。
オーバーバックが、不意にボクの方を見た。
「……にしてもお前。回復が早いなぁ。殺さない程度に加減はしたが、腕取れてるかと思ってたぜぇ」
……!!?ボクの正体を、こいつは知ってる!!?
「……どうして分かったにゃ」
「俺には真実が『見える』んだよぉ。どんな魔法も、俺の前では無意味だぁ。
……せっかくだから、注文するぜぇ。焼きビーフン……はねぇなあ。この『パンシート』にするかぁ。一応、麺類らしいしなぁ」
まるでボクらがいないかのように、オーバーバックは気ままに振る舞っている。「殺そうと思えば殺せる」とでも思っているのか?
「何が望みにゃ」
「あぁ?さっき言っただろぉ、品定めってなぁ。あとは改めて警告だぁ。
緑髪の女には手を出すなぁ……依頼主からの依頼でなぁ、そこだけは契約上果たさなきゃいけねぇんだよぉ」
「契約主……アヴァロン大司教にゃ?」
「さあなぁ……ただ、俺の契約にはお前らを消すことは含まれていねぇ……何もしねぇんなら、将来性に免じて見逃してやるよぉ」
ガタン、と急にデボラさんが立ち上がった。目の前のかき氷は、すっかり溶けてしまっている。
「……行くよ」
「……分かったにゃ」
もちろん、アヴァロン大司教の件を諦めたわけじゃない。ただ、この場は早く立ち去りたかった。
エリックの言う通り、この男は……危険だ。底が全く見えない。
「おうおう、せっかくだから名物の『パンシート』でも見ていけよぉ。
……というか狐の女ぁ。お前、どこかで見たことがあるなぁ」
「知らないね」
オーバーバックの笑みが、さらに深まった。
「いやいや、会ったことがあるぜぇ……ああそうだ、あれは15年前だぁ。確か、名前は……パメラ」
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