526: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/11/14(土) 20:00:00.65 ID:OmOMbSvFO
「そうします」
エリックの様子が気になったけど、そっとしておこう。私が声をかけて、どうなるって話でもなさそうだし。
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「……ふう」
お湯につかり、私は軽く息をついた。お風呂は外にあって、海を見ることができるようになっている。
温泉を引いているらしく、お湯は白く濁っている。疲れが芯から溶けていく気がした。
「入るよ」
後ろから声がした。デボラさんだ。胸は大きいけど腹筋は締まっていて、鍛えているのがよく分かる。……私のポヨポヨした身体とは、随分違うなあ……
「あっ、はい。どうぞ」
「フフ、遠慮しなくていいんだよ。……久々にロックモールに来たけど、やっぱり温泉は格別だねえ」
「護衛とかで、よく来てたんですよね」
「ああ。ゴンザレス家にも世話になったことがある。何であの親父が豹変したのかは、未だによく分かってないんだけどね」
「そうなんですか?」
デボラさんの表情が暗くなった。
「……突然だったからね。旦那……マルケスはカルロスの父親を護衛し終わった帰りに、後ろから刺されたのさ。ゴンザレス家の傘下、チャベス組の連中にね。
そして、連中はベーレン家とモリブス政府に牙を剥いたのさ。ロックモールの独立を叫んで、ね」
「……何でそんなことを」
「……さあね。ただ、万病の薬ってのが本当なら、それを狙っていた可能性はあるかもしれないね……」
彼女はお湯を掬い、それを顔にかけた。
「1年前から、メディアさんは狙われていた?」
「どうだろうね。あんたの魔法なら、少しは分かるかもしれないけど。ただ、どこでいつまで時を戻せばいいのやら。
そもそも、そんな娘が1年間どこにいたのかも謎だね。一度、メディアに会ってみないと」
「でも、どうやって」
「そこだねえ……まあ、行ってから考えるさ。情報が色々足りなさすぎるしね。
それにしても、いいのかい?エリックを放っておいて」
「ひあっ!!?な、何ですか急に」
ニヤニヤとデボラさんが笑う。顔の温度が急に上がった気がした。
「あんだけ凹んでるエリックはほとんど見たことがないからねえ……てっきり、今日は傍にいるものだと思ってたよ」
「……心配じゃない、と言えばそうですけど……どんな声をかけていいのか、分からなくて」
「同じ空間にいるだけでも意味はあるものさ。まあ、あんたの言うことも分かるけどね。
あいつは下手に触るとへそ曲げるからねえ……」
確かに、エリックが怒る時は一気に沸騰する印象がある。
普段は落ち着いていて紳士ですらあるけど、触れられたくない部分には絶対に立ち入らせない、壁みたいなものが彼にはあった。
そういうのは、乗り越えるべきものなのだろうか。それとも、そこは触れないままにするのがいいのだろうか。……私には分からない。
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