489: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/11/01(日) 21:08:20.22 ID:7lCLmiUQO
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モリブスを出て3日目の昼。巨大な樹が、遠くに見えてきた。あれが「女神の樹」か。
「……大きいですね」
「高さは数百メドはあるらしい。木陰はいつも暗いから、幹に近いほど裏の世界になるんだ。娼館や賭場は、そっちの方にある」
「そういうことだね。普通の旅人は周辺の温泉に泊まるか、金があれば海に行くね。
で、あんたは追放されてるんだろ?どこか行くあてはあるのかい」
カルロス君が黙った。
「海側に別荘がある。そこも抑えられてたらお手上げだけど、あそこの存在はゴンザレス家の親族しか知らないはずだ」
「大丈夫なのか?」
「……まあいざとなれば旅人のふりをしてやり過ごすしかないさ。俺の顔は周辺部ならそう知られてないし。お前らは……まあ全員目立つけど」
シェイド君の目が輝いた。
「海にゃ!?おっぱい……」
「はないぞ。砂浜はかなり遠いからな。父上は書斎代わりに使われていた。静かなところさ」
向こうから10人くらいの人たちが、馬に乗ってやってきた。バザールの商団かしら。
「おお、ロックモールに行きなさるか」と、向こうから声をかけてきた。
「何だい?モリブスの商人と見受けたがね。帰りかい」
「いや、門前払いを食らった。昨日テルモンの連中が大勢やってきてな。ロックモール市は連中に占拠された。
モリブス側から入るのは査証が必要なんだそうだ。ただ、昨日の今日でそんなのが手に入るわけもねえしな……商売あがったりさ」
商人はうんざりしたように荷物を見ると、「じゃあな」と立ち去っていった。
「査証……そもそも、ロックモールが占拠されたこと自体モリブスには伝わってないだろうからねえ。……そういうことかい」
「どういうことです?」
デボラさんが苦笑した。
「ベーレン侯はある程度こうなることを読んでたわけだね。あたしらがアヴァロンを狙うことで混乱が生じれば、そこが突破口になるということか」
「でも、ロックモールが封鎖されているならどうやって中に入るんですか?」
「そこだねえ。カルロス、いい案はあるかい?」
「……ロックモールは城壁で覆われているわけじゃないが、モリブス側から入れる道は3つしかない。
そこに兵士を置かれたら、強行突破以外は手がないな……いきなり騒ぎを起こしたら、メディアを奪い返すなんて無理だと思う」
「あんたしか知らない道があるとか、そういうことはないかい?」
カルロス君が辛そうに首を振る。
「……そんな都合のいいことはないさ。いきなり躓くなんて」
「まあ、正面からやるしかないな。手早く終わらせる」
エリックの言う通り強行突破自体はできるだろう。ただ、「騒ぎにならずに」となると難しい。
その時、シェイド君がニマッと笑った。
「僕の出番のようにゃ」
「え?」
「僕が何者か、プル姉さん分かってるかにゃ?」
「……あっ!!」
「そうにゃ。猫になれば簡単に入れるにゃ。そこから査証を盗んでくるにゃ。ついでに中の様子も見てくればなお良しにゃ」
なるほど、確かにその通りだった。ジャックさんの下にいただけあって、女の子追ってるだけの子じゃないんだな。でも……
「結構危険だよ?あんた、本当に大丈夫なのかい」
「デボラ姉さんはこの前のボクの勇姿を見てないのにゃ。まあ心配しないでにゃ。皆はティアナの街で待機してるにゃ」
トン、と自信ありげに胸を叩くと、白い煙とともに彼は黒猫の姿になった。
「じゃ、行ってくるにゃ」
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