338: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/10/04(日) 19:35:03.11 ID:KRGt/NcrO
「よう、久し振りっちゃね」
陽気に大男が手を上げる。髪は禿げ上がり、顎髭を生やしている。どこぞの山賊か何かかとしか思えない出で立ちだが、この男がモリブス統領、ジョイス・ベーレンだ。
「御無沙汰しております」
「エリックも元気そうたい。にしても、随分賑やかやねえ。弟子は取らん言うてなかったか?」
ベーレン候の言葉は南ガリア訛りが強い。オーガの血が入っているとも聞く。
オーガやオークは粗暴な種族との印象が強いが、十分な知性を持ち合わせた者も決して少なくない。ただ、人の言葉が構造上発音しにくいだけなのだ。
ベーレン候は混血だからか、さすがに流暢だ。それでも独特の訛りはある。
ジャックが苦笑した。
「まあ、成り行きだな。それに、期間限定だ」
「……身体は大丈夫なんか」
「しばらくはもつだろう」
「煙草はほどほどにしとき。アリスちゃんが悲しむけん」
「あいつも承知の上さ。小姑みたいな説教をしにここに来たわけではないだろう?」
ベーレン候が頷く。
「まあ、知っての通りっちゃ。ロペス・エストラーダとルイ・ネリドが消えた。どっちも俺とは敵対してたけど、さりとて不在なのも困る。そして、それが意味することが何かも大体は分かる」
「……そうだな。話に入る前にここにいる奴らを一通り紹介しておこう。この眼鏡が、件(くだん)のプルミエール・レミュー」
プルミエールが遠慮がちに一礼した。
「で、このチビエルフが」
「チビは失礼じゃないですか??あ、私はトリス森王国の……」
「第3皇女エリザベート・マルガリータっちゃ?で、そこの背の高いのが、ビクター・ランパード卿やね」
「え、会ったことって……」
「いや、ない。申し訳ないんけど、頭ん中を少し読んだたい」
「『読んだ』?」
ベーレン候が人懐っこい笑みを浮かべた。これがあるからこの男は憎めない。
「っちゃ。ベーレン家は代々『精神感応術』が使えるんよ。要は、思考の表層を覗けるっちゃ。
アングヴィラのクリス・トンプソンのような水準じゃなかけど、色々便利なんよ。こうやって驚かしたりな」
「相変わらず人が悪いねえ」
「はは、まあ手品みたいなもんたい。不快にさせたなら謝るっちゃ」
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