294: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/09/21(月) 15:25:50.75 ID:MsiqRxPqO
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「なるほど、な。……『六連星』か」
ジャックさんは煙草を灰皿に押し付けた。もう灰皿には潰れた煙草が数本転がっている。
私たちの説明を、ジャックさんは煙草を吸いながら黙って聴いていた。煙が部屋に充満し、少し息苦しい。
「やはり、知ってたんだね。それがあたしらの仇かい」
「……!!どうしてそれを」
「ガキの頃、先生とベーレン侯が話していたのをこっそり聞いちまったのさ。クドラクか六連星か、どっちかがあたしらの両親を殺したんじゃないかってね」
ジャックさんは、深く煙草の煙を吸う。そして白煙を吐き出すと、少しだけ目を閉じた。
「どちらかといえばクドラクの方が可能性が高いと思っていたがな。正直、真実は藪の中だ。
それこそ、プルミエールの『追憶』を使えば話は別だが。とにかく、状況はよく分かった」
彼は本棚からあの「遺物」の目録を取り出した。
「お前らの言う通り、エストラーダ邸を消したのは六連星の誰かが濃厚だ。転移術に近いが、俺の知識をもってしても事前準備なしにそれほどの質量を瞬時に消し去る魔法は存在しない。
恐らくは、転移術の力を増幅させる『遺物』を使ったと見るのが妥当だろう」
「小娘が言うには、エストラーダ邸に入って行ったのは2人ということだが」
「片方はモリブスのネリド大司教で間違いないな。外見からしてまず間違いない。
イーリスのユングヴィ教団服を着ていたのが、六連星と見て間違いないだろう。白髪の男でネリドが下手に出ていたことからすると……ミカエル・アヴァロン大司教か」
「……!!六連星の構成員を知っているのか?」
「いや、外見上の特徴から判断しただけだ。デイヴィッド・スティーブンソンもそうだが、六連星は恐らく貴人としての表の顔を持っている奴が大半だ。そうでないと特級遺物は持ち得ないだろうからな。
だから、六連星に弓を引くことは、世界に対して弓を引くこととほぼ同義と思うべきだろう」
ジャックさんは苛立ったように、煙草の火を灰皿に押し付ける。そして懐から、また紙巻き煙草を取り出して口にくわえた。
「そんな……じゃあどうすればいいんですか?」
「お前たちが世界に喧嘩を売る覚悟があるかどうか次第だ。まあ、エリックは当然覚悟を決めているようだがな」
「無論だ」
魔王の目はゆるぎない。私には、まだそこまでの覚悟はできていない。けど……
「どうして、その……アヴァロン大司教はエストラーダ邸を消したんでしょう」
「不都合、だったからだろうな。お前らの推測通り、クドラク事件の背後には六連星……アヴァロンがいた可能性が極めて高い。そのことが知られるのを恐れたのだろうな」
「そんなの……自分の都合で、罪のない使用人さんたちまで巻き添えにしたってことですか!!?」
「俺はミカエル・アヴァロンの人となりを詳しくは知らない。教義に厳格、魔族弾圧では先陣を切る『聖人』ということぐらいか。少なくとも、俺は酒をそいつと飲みたいとは思わない」
そう言うと、ジャックさんは目録をパラパラとめくる。そして、あるページで止まった。
「前にも言ったが、これに書かれているのは現在判明している『遺物』の情報でしかない。だからこれに書かれていない『遺物』があっても一切驚かない。
だが、イーリスにあって、なおかつ特級遺物となると……これしかないな」
彼が指差した文字は……
「冥杖グロンド 等級:特級」
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