210: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/09/10(木) 20:37:20.29 ID:Q6atrxSlO
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父さんと母さんが消えたのは、15年前のことだ。当時から冒険者として十分な名声を得ていた父さんと母さんは、モリブス統領府からの依頼も多く請け負っていたようだった。
その中の一つに、オルランドゥ大湖の調査がある。直径最大1200キメド、北ガリア大陸の中央に位置する巨大湖だ。
その全貌は謎に包まれている。湖の水は多くのマナを含み、そこで生きる生き物は超常のものも少なくないと聞く。
湖にある島から「遺物」が発見されたこともあるという。しかし、恐ろしく危険なため、十分な調査はほとんどなされていない。
かつては湖ではなく、巨大な空洞であったとも言われているけど。
とにかく、父さんと母さんは度々オルランドゥ大湖に赴いていた。2人が消えた日も、いつもの調査と変わらなかった。妙に険しい、父さんの顔を除いては。
『どうしたの、父さん』
『……デボラ、今回は帰りが遅くなるかもしれない』
『……?どういうこと?』
父さんは一瞬言い淀んだ。
『少し、調査範囲を拡げようと思ってね。もし、1ヶ月して帰らないなら、ジャックの元を訪ねるといい』
『……危ないの?』
ハハハ、と父さんは笑った。
『いや、少し遠出するだけだ。きっと戻るから、心配しないでくれ』
父さんが何か隠しているのは、何となく分かった。当時のあたしは15歳。既にジャックさんから、初歩的な魔術も教わり始めていた。物の道理は、ある程度分かる。
『……帰ってきてね』
父さんは笑いながら、母さん譲りの銀髪をくしゃくしゃとやった。
それが、父さんとの最後の会話だ。
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