魔王と魔法使いと失われた記憶
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209: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/09/10(木) 20:36:35.12 ID:Q6atrxSlO

「来たかい」

「ああ、デボラ義姉さん。向こうから走ってくる」

義弟のラファエルが鼻をひくつかせた。あたしは視線を落としたまま呟く。

「走ってくる?」

「ああ。誰かに追われてるみたいだ」

「プルミエールは今どのへんだい」

「ここから100メドぐらい。もうすぐ着く」

「いきなり異常事態だね」

あたしはサッと手をあげた。身を潜めていた組員たちが、噴水の周りにいる一般人たちを追い出しにかかった。
この辺りはワイルダ組のシマだ。往来はある程度あたしらの好きなようにできる。
だからこそ、ここを作戦の視点にした。周囲への被害は、最小限に抑えたい。

にしても、本来はここでクドラクが来るのを待ち伏せるはずだった。既に追われているのは、かなり計算外だ。

「クドラクがどこにいるか分かるかい?」

「いや、匂いがしない。血の臭いなら、ここから200メドぐらい離れた所に1人。まだ生きてる」

「匂いすら残さないのかい……厄介極まりないね」

掌に汗が滲む。面倒な、一銭にもならない頼みごとを引き受けたもんだ。
だけど、これはワイルダ組にとって必要なことだ。うちのシマを好き放題荒らす怪物は、始末しなきゃいけない。


そして、何より……あたしのためにも。
あれは、あたしの仇かもしれないのだから。




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