190: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/09/04(金) 21:05:45.29 ID:p7BjaNK9O
お母様が亡くなられた時のことは、はっきり覚えている。
自ら、懐剣で喉を突く日の前の夜だった。お母様が、私の寝室に来たのだった。
「ファリス、起きてる?」
「むにゅ……なあに、おかあさま」
「貴女に、渡したい物があるの」
「え?」
お母様は、ベッドから起き上がった私に、アミュレットと綺麗なドレスをくださった。
「これ、なあに?」
「貴女が大人になってから、着てほしいの。お母様からの贈り物よ」
「なんでわたしにくれるの?」
お母様が急に私を抱き締めた。
「お母様はね、これから遠い所に行くの」
「どおして?」
「……そのアミュレットを着けてごらんなさい」
私は、言われるがままそれを着けた。手首には当然大きすぎて、肩まで行ってしまったけど。
そして、お母様は私の手を取った。
お母様の思考が、頭に流れ込んでくる。
まだ幼かった私には、それが何かほとんど分からなかった。でも、一つだけハッキリ分かったことがある。
お母様は、病気だ。それも、決して治らない病気にかかっている。
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