魔王と魔法使いと失われた記憶
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179: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/09/03(木) 19:24:08.35 ID:2/zsC842O
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「失礼します」

私はファリスさんの部屋に入った。この前のように、身体を起こしてじっと窓の外を見ている。アミュレットは……化粧台の上だ。

「……貴女は、プルさん、だったかしら?」

コホコホと咳をしている。見るからに、少し辛そうだ。

「はい。施術日が決まりましたので、その説明にと」

「エルフのお医者様は?」

「エストラーダ様に説明しております。お嬢様には、私が」

「そう。どのような形で行うのでしょうか」

私は簡単に流れを説明する。ファリスさんは黙ってそれを聞いていた。

「……施術後1、2日は睡眠魔法で眠っていただきます。痛みが抜けましたら治癒魔法と薬湯中心の治療になります。完癒までは、差し当たり術後2週間ですが……」

「その後には、普通に歩けたりするのかしら」

「ええ。ただ、落ちた体力が戻るまでは要療養です」

ファリスさんが小さく息をついた。

「……外の世界は、簡単には見れないのですね」

「……確か、ずっとお身体が」

「ええ。この屋敷の外に出たのは、数えるほどしかないのです。このまま、朽ちていくのは……絶対に嫌」

僅かに口調が強くなった。

「数えるほどしか、外出されたことがないのですか」

「……ええ。お母様に連れられて、幼い頃に何回か。亡くなってからは、お父様が心配して……」

「外に出たいと言ったことは」

ファリスさんが寂しそうに首を振った。

「何回も。でも、お父様は聞き入れませんでしたわ……。あ、お父様のことは愛しておりますわ。でも、このままだと……私は、『誰にも覚えて貰えない』」

「え」

「……もっと色々な人に会いたいし、自分が生きていたという証を……コフコフッ、残したいのです。このまま死ぬのだけは……コフコフッ!!」

「大丈夫ですか?」

辛そうなファリスさんの背中をさする。掌に、薄い紅が見えたのが分かった。

「はあっ、はあっ……ええ、この程度なら」

「でも血がっ!?」

「肺に病があるのですから、当然ですわ。……とにかく病を治さないと……」

この人は、生まれてからずっと籠の中の鳥だったんだ。広い大空に憧れるのは当然だろう。
……私とそんなに歳が変わらないはずなのに、どんなに辛かっただろうか。


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