117: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/08/18(火) 21:23:48.92 ID:8Z5elHuBO
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ワイルダ組の応接間は、思いの外飾り気がなかった。無頼衆というと、派手で怖い先入観があったけど……
「つまらない部屋だろう?」
デボラさんが部屋を見渡して言う。
「いえ……そんなんじゃ」
「いいんだよ、本当のことさ。旦那は不要な物を置くのを嫌がったからねえ」
彼女の視線の先には肖像画がある。仏頂面のコボルトの男性が腕を組んでいた。
「……旦那さん、ですか」
「そうさ、1年前に殺された」
燕尾服の男性がお茶を運び、無言で一礼する。
「悪いね、パーネル」
「失礼します」
出てきたのはモリブス流のミルクティーだ。甘く色々な香辛料が入っているもので、少し癖がある。
口にすると、複雑な香りが広がった。甘さの中に華のようなふくよかさがあるというか……苦味はあるけど、このお茶は嫌いじゃない。
「……美味しいです」
「だそうだよ?エリック」
「なぜ俺に振る」
「ん?理由が必要かい?」
魔王はムッとしてお茶をフーフー吹き出した。熱いのダメなのかな。
「ま、それはそれとして。旦那の仇を取ったのがエリックさ。本当はジャックに頼みたかったけど、彼は病気だからねえ。
遣わされたのが14ぐらいの子供だった時はどうしたものかと思ったけど、まあ結果としては本懐を遂げられたよ」
あ、借りってそういうことか。なるほど……
「無駄話はいい、本題に入らせてくれ」
「ああ、すまないねえ。で、何だい。無茶な話じゃなきゃ聞くよ」
「最近相次いでいる要人の暗殺。下手人に心当たりはあるか」
サッとデボラさんの顔色が変わった。
「……あんた、確かしばらくモリブスにいなかったね」
「ああ、野暮用でジャックの所にいた。モリブスの市街に来たのは1ヶ月ぶりぐらいだが」
「そうかい、知らないはずだよ。夜に出歩くのは止めときな」
「……何?」
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