111: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/08/18(火) 21:14:20.10 ID:8Z5elHuBO
ユングヴィ教団の大聖堂は、街の真ん中にある。鋭い尖塔と、その上部の大時計はモリブスのシンボルだ。
何でも500年前、世界を救った英雄とその仲間が私財を投げ打って作ったらしい。
ユングヴィ教団というとイーリス聖王国の印象が強いけれど、元を辿ればここが発祥なのだという。一生のうち一度は必ずここを訪れるのが、熱心なユングヴィ教徒の決まりだ。
私たちは、その下にいた。初秋とはいえ、モリブスの陽射しは暑い。私は眼鏡を外し、眼を拭った。
入口には、山のように花束が積まれていた。ユングヴィ教団の大司教補佐、ミリア・マルチネスが殺された現場だ。
彼女と思われる似顔絵も幾つかあった。どれも優しそうな婦人の顔だ。
今も目を腫らした老婦人が、フロアロの花を持ってやってきたところだ。随分慕われていたんだな。
「何か、御用ですか」
若い男が、私たちに呼び掛けた。
「あの……ちょっと」
「少し、ここで調べたいことがある。手間は掛けさせない」
魔王が言うと、男の額に少し皺が寄った。
「……子供の、それも魔族が来るところではありません。立ち去り……」
「『全ての種族に等しき救いを』。それがミリア・マルチネスの教えだったはずだが?」
魔王が鋭く言い返す。男の表情が、さらに険しくなった。
「……ネリド大司教は、『神を信じる者のみが救われる』と仰ってます。魔族は神を信じないのでしょう?勿論、ユングヴィ教も」
「だからと言ってここで俺たちが何をしようと勝手だ。お前らに迷惑は掛けん、だから消えろ」
「……何ですって」
男が魔王に掴み掛かろうとしたのを、私は間に入って止める。
「ちょ、ちょっと!!す、すみません、本当に大したことではないんです。ただ、1刻……いえ、半刻の間、ここにいさせてください。
死者を弔うのは、人も魔族も関係ないはずです」
「……」
男がじっと私を見る。そして「ふんっ」と言うなり踵を返した。
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