51: ◆kratnb/iBE[saga]
2020/08/29(土) 13:30:17.55 ID:EsROXA4w0
オレには何もなかった。誰も何も与えてくれず、自分の居場所は自分で手に入れるしかなかった。
奪ってやる。自分に居場所がないなら、奪い取って勝ち取って何がなんでも居場所を手に入れてやる。
そんな想いを抱きながら、結局何も得られずに生を終えた。
こんなオレを召喚するなんて、相当なロクデナシだと思ってた。
なのにあいつはオレに言った。
「お願い、力を貸してほしい。僕には貴方の力が必要なんだ」
まっすぐ見つめられて、その瞳にくぎ付けになってしまったのを今でも覚えている。
澄んだ瞳には熱い感情が籠められていて、本当の本気でオレを必要としていて、何が何でも勝ってやるという気持ちが伝わってきた。
つまんねー奴ならぶん殴って帰ってやろうかと思ってたのに、向けられた感情が心地よくてこいつの為に戦ってやる気になれた。
ここでの生活は楽しかった。生前では考えられないような毎日。
楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて……失う訳にはいかない大切なものになっていた。
その象徴たるマスターを、目の前で失いそうになった。
このオレが。反逆の騎士モードレッド様が。
ひ弱なマスターを失なったと思った瞬間、恐怖した。絶望した。怖くて怖くて何も考えられなくなっていた。
マスター。弱い癖に前向きで臆病者の癖に勇気があって何も持ってないのに周りに幸福を振りまく馬鹿野郎。
いつからオレは、あいつを特別視していたんだ?
自分の事だっていうのに、気づきもしなかった。失いかけて初めて気づいた。
あいつの顔を見た途端、何もかもどうでもよくなって、嬉しくなって抱きしめたくなった。
…………まさか、このオレが。
何度否定しようとしても、結論は一緒だった。
ならばどうだというんだ? 別に何も変わらない。
……守る。誰の為でもなく己の為に。
この剣にかけて、二度とは繰り返さない事を誓う。
オレの居場所を、誰にも奪わせてたまるか。
53Res/33.82 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20