男「大将! 油マシマシのアチアチラーメン一丁」
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8:名無しNIPPER[saga]
2020/07/05(日) 09:03:09.11 ID:sGoLw9kr0
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 店主の記憶は今や、全て明らかとなった。
 あの日も、大タヌキは店に来るなり「こってりラーメン」大盛りを声高らかに注文した。その提供は実に迅速だ。あっという間にできあがったラーメンが、大タヌキの前へと店主自身の手によって運ばれてくる。店主からしてみれば、大タヌキが店に入ってくるなり通常の二倍の麺をゆで始め、注文が入るころには麺のあがりを待ち構えているのだから当然といえば当然の早さであろう。あとは、大タヌキの食の進みに従って、注文されるであろう替え玉の投入時期を見極めるばかりなのである。「ナナフシ」が来店したのは、そんなタイミングであった。

 ナナフシは、大タヌキとは対照的に線の細い男であった。細く鋭い目に、シャープな印象の角ばった眼鏡をかけている。普通の感性であるならば、タヌキの対象で彼に「キツネ」の愛称をつけたであろう。しかし、ナナフシは「キツネ」と称するにはあまりに細すぎる。まるで道端に落ちている小枝のように、細く弱弱しい、かつ長く伸びた手足から想起されるのは必然的に昆虫の「ナナフシ」なのである。しかしながら、彼の食欲はその愛称とは打って変わって太く逞しいものだった。

 と言っても、大タヌキのように大量のラーメンに立ち向かうわけでは無い。彼が食べきるのは常に、通常の「こってりラーメン」一杯に過ぎない。だが、その一杯にかける静かながら熱い思いは常人のそれを遥かに超えている。大タヌキの食べっぷりを敵の大群の中を単身突き進む武将に例えるならば、ナナフシのそれは静止した世界の中から、一瞬で決着がつく剣豪同士の一騎打ちと言えよう。ナナフシの食事はあまりにも静かでかつ早い為、いつも店主が気づかぬうちに食べ終わってしまっているのだ。いつの日か店主は、ナナフシがラーメンの湯気で眼鏡を曇らしながらラーメンを啜っている姿を見てやろうと密かに隙を伺ってみたことがあった。しかしホンの一瞬、寸胴鍋に気を取られた僅かな時間の内に彼は既に「ごちそうさま」の合掌へと移行していたほどだ。
 


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