【ミリマス】あなたの温度、幸せの温度
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9: ◆ncieeeEKk6[sage saga]
2020/05/19(火) 17:49:12.35 ID:U1swVBcn0
 「プロデューサーさん、暑いなら一緒に登山に行きませんか? 山の上は涼しいですよ」

 「山か……遠慮しておくよ」

 一瞬だけ“いいな”と思ってしまった。冷静になろう。その涼しい場所にたどり着くまでに、いったいどれほどの汗を流せばいいんだ? そして山に登ったからには、暑い暑い平地へ戻らなければならない。やっぱり登山はなしだ。

 「……もう我慢できない。エアコンを点けよう」

 予報では、今日をピークに気温は平年並みに戻るらしい。けれどこのままでは今日を乗り切れない。だから今日だけ。それも、ここで仕事をする間、つまりあと1時間程度だ。電気代にさほど影響はないだろう。
 とはいえそれだけだと禁忌を犯す理由としては弱い。恐ろしさにおいて、暑さと律子の説教とでは後者に軍配が上がる。安全が保証されていなければ、エアコンをオンにする行為は非常にリスクが高い。

 「あれ? いいんですか?」

 「本当は駄目だよ。律子にバレたら怒られる。……バレたら、な」

 そして、今日はその安全が保証されている日だった。今日は劇場の休日だ。律子も、それどころか他のみんなも劇場に来るはずがない。麗花さえ秘密にしていてくれれば、このことが絶対に露見することはない。

 「麗花、律子には言わないでおいてくれるか?」

 その言葉を聞いて、麗花は心底楽しそうな笑みを浮かべた。

 「わかりました。律子ちゃんにはナイショにしておきますね」

 「よし。頼むぞ」

 「はいっ。……あ。プロデューサーさん、私からもお願いしていいですか?」

 「ああ、もちろん。麗花にもこっちの頼みを聞いてもらうわけだからな。それで、どんなお願いなんだ?」

 「それは……思い付いたら言いますね!」

 「具体的な何かがあって言ったわけではなかったのか……」

 まあ何はともあれ取引成立だ。これで後の憂いなくエアコンを楽しめる。普段の設定温度は28℃厳守なのだが、せっかくだし今日は24℃にしよう。これも律子にバレたら大目玉を喰らうが、麗花が言わなければなんの問題もない。

 「涼しいですね」

 「ああ、涼しい。幸せだ……」

 冷風を全身で堪能しながら、麗花のお願いは絶対に聞いてあげようと心に誓った。それこそ登山でもなんでもドンと来いだ。



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