15: ◆ncieeeEKk6[sage saga]
2020/05/19(火) 17:53:36.09 ID:U1swVBcn0
chapter 4. Body Temperature / me:get lonely easily
今週は、出張の間滞っていた業務の後処理に奔走した週だった。
帰路の途中、疲れに耐えかねたのでコンビニで休憩することにした。いつものブラックコーヒーを車の中で飲むと、モヤがかかった頭の中が徐々に晴れていくような気がした。
深いため息が漏れる。
本当は、今すぐ家に帰って休むべきなんだろう。シャワーを浴びて、寝たい。ここしばらく続いた忙しさは今日で一段落ついたとはいえ、明日が休みというわけでもない。ただ、ここから家まで数kmほどの道のりを運転する気力が湧いてこない。
時間を確認しようと腕時計を見る。8時を回ったところだったけれど、本来の目的ではない別のものに目を奪われた。日付だ。
「5月17日……」
何度見ようとも時間が遡ることはない。
今日は麗花の誕生日だった。パーティーに参加できないのは前からわかっていて、せめてプレゼントは手渡ししたいとスケジュールを調整しようとしたけれど、個人の裁量には限界がある。結局、メールでのお祝いと劇場の机にプレゼントを置いておくことしかできなかった。
パーティーの様子は、劇場のみんなから写真として送られてきた。他のアイドルの例に漏れず麗花のパーティーも盛大に行われ、誰もが笑顔になる素晴らしい会だったようだ。最近会えていなかった麗花も満開の笑みを咲かせていた。パーティーに行けないとを伝えたメールに返信がなかったので心配していたけれど、一安心だ。
……本当に、そうだろうか。ここ最近──と言っても最後に会ったのはしばらく前だ──の麗花の様子を思い出してみると、今になって色々と引っかかる。
わざわざ2人で交代しながらお茶を注いだのは。
あの暑い日、休みだったのに劇場に来たのは。
自分で飲むと言い出したのにコーヒーを飲み干そうとしなかったのは。
麗花は、会いたがっているんじゃないか。今日だって、ずっと待っていたんじゃないか。
あるいは、今も待っているんじゃないか。
いったん浮かんだその考えは、湯気のようにすぐ消えてはくれなかった。
劇場に行こう。帰るには遠回りになるけれど、今はそんなことどうだっていい。ただ麗花のことだけが気がかりだ。
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