39: ◆H5MbwxPKRo[sage]
2020/05/16(土) 17:28:21.84 ID:5z9OpdEU0
紅は酒に弱いわけではないが、飲みすぎると泣き上戸になる癖がある。
普段のクールさが嘘のようにめそめそと語りだし、誰彼構わず愚痴をこぼしまくる。
まりは1年前の事件でそれを目にしたことを思い出していたのだ。
40: ◆H5MbwxPKRo[sage]
2020/05/16(土) 17:29:02.58 ID:5z9OpdEU0
「やっぱりなにか思い出してるだろう」
「そんなことないですよ〜♪」
まりは紅をはぐらかしながら皿の上のイカに箸を伸ばし、ぱくりと頬張った。
41: ◆H5MbwxPKRo[sage]
2020/05/16(土) 17:29:39.25 ID:5z9OpdEU0
紅はまだ憮然とした様子でまりを睨んでいたが、やがて小さくため息をつき、森浦に向き直った。
「森浦さん、そろそろ…」
「……はい。依頼というのは他でもありません…。私の娘を探して頂きたいのです」
42: ◆H5MbwxPKRo[sage]
2020/05/16(土) 17:30:10.34 ID:5z9OpdEU0
――森浦には『和香』という名の娘がいた。
母親は和香が小学校に上がる頃亡くなっているが、森浦は再婚せず男手ひとつで和香を育てた。
森浦の料理の腕はなかなか評判がよく、経営していた店も小さいながら父娘が食べていくには困らない程度には繁盛していたという。
43: ◆H5MbwxPKRo[sage]
2020/05/16(土) 17:30:41.64 ID:5z9OpdEU0
――しかし5年前、外出先から森浦が戻ると、店は荒らされ、金目のものは全て奪い去られていた。
それだけではない、留守番をしていたはずの和香と従業員の女性…こちらは『美春』といった…も行方不明になってしまったのだ。
44: ◆H5MbwxPKRo[sage]
2020/05/16(土) 17:31:13.23 ID:5z9OpdEU0
――店内は派手に荒らされてはいたが血痕などの痕跡はなく、二人は犯人に連れ去られたものと考えられた。
しかし警察の捜査は遅々として進まず、森浦は自ら人を雇って行方を捜し始めた。
探偵、興信所、時には怪しい稼業の人間まで…。しかし手がかりは掴めなかった。
45: ◆H5MbwxPKRo[sage]
2020/05/16(土) 17:31:53.74 ID:5z9OpdEU0
――やがて財産が底をついた森浦はこのスラム街に移り住み、不法投棄された資材でこしらえた屋台でなんとか日々生きていける程度の稼ぎを得て暮らしていたのだ。
46: ◆H5MbwxPKRo[sage]
2020/05/16(土) 17:32:40.76 ID:5z9OpdEU0
「正直、私も諦めていました…無我夢中で探しまわってもなにも見つからず……雇った人間も、正直、その……金をふんだくって行方をくらますようなのが何人も……さすがに、疲れはててしまいまして…」
「もう酒だけが生きがいのような毎日で…もっとも、自分で飲むぶんなんて大して買えないので…飲んだくれのくせにまあまあ健康という……ええ、今日は特別です、ははは…」
47: ◆H5MbwxPKRo[sage]
2020/05/16(土) 17:33:09.91 ID:5z9OpdEU0
――しかし、先日。森浦はセンザキの繁華街で男と連れ添って歩く美春らしき女性を見かけた。
「美春!」
森浦が名前を呼ぶと女は血相を変えて駆け出し、森浦もその後を追いかけようとした。
48: ◆H5MbwxPKRo[sage]
2020/05/16(土) 17:33:47.05 ID:5z9OpdEU0
――が、すぐに女と連れ添っていた男に襟首を掴まれてしまった。
「おいっ!なんだテメェは!」
「放してくれっ…あのっ…美春っ…」
49: ◆H5MbwxPKRo[sage]
2020/05/16(土) 17:34:24.32 ID:5z9OpdEU0
――顔面を殴られて気絶した森浦が目を覚ました時には、男も美春らしき女も跡形もなく消えていたという。
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