アルコ&ピース酒井「Black Savanna」
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7: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/05/05(火) 19:52:34.72 ID:z3oD1mZbo
「結構この辺歩いてるつもりだったけど、知らねえこといっぱいあんな」

誰とも言わずひとり呟く。オレにだってそんな日くらいありますわ。

歩いている道の先の方で、信号が点滅して青から赤に変わった。車道の信号と一緒に全てが赤になる。人と車の入れ替わり、全ての物体が動かずにピタリと止まるあの瞬間。ほんのわずかに世界が静まるあの瞬間。


地面が、揺れた。


「ッ!?」

思わずよろける。
だけど周りは普段通りで、怪訝そうな目を向けてくるやつまでいた。え?なにこれオレバカみてぇじゃね?って周り見回す。だっれもよろけてない。あの振動なんだったん?
地震……ってわけでもなさそう、だな。じゃなきゃみんな、ビビっててもおかしくねえし。
その時、何でか分かんないけど、不意にさっきのぽっかり空いたビルの風景に何かを感じて、首を回して振り向いた。

そこに誰かいた。

「は?」

誰だよ。

結構な距離があるはずなのに、間違いねえ、オレはそいつと目が合っている。いや、確実に合ってる。間違いねえわ、しっかりふたつの目がオレに向いている。
こんなに遠いのに、それは、なんでか分かんねえけど分かった。理解出来た。ポケモンならこの距離でも間違いなくバトル仕掛けられてるはずなんで、こうなったらピカチュウ車ですてみタックルするしかねえ。例の平子さんちに納車された車で。
そいつは多分子供だ。そんなに大きくはない。遠近法のせいかもしんねえけど、それにしたって小さい。真っ白な服、真っ黒な髪の毛、表情はよく見えなくって、でもなんか目は合ってて……なんなんだこいつ。
オレ、前にこいつをどこかで見た?そんなバカなことは……何故か見覚えがある気がする、面識がない子供だった。周りは気づいていないのか、それとも見えていないのか、そんなものに目を凝らすヤツはいねえ。
そいつはオレの方見て、なんか、なんだ?笑ってんのか?その姿を懸命に見る。なんだよ、あいつオレの方指さして笑って───



ビーーーッ!!



耳をつんざく大音。
驚いて反射的に顔は前方に向く。
次の瞬間、車が一台、法定速度を大幅にオーバーしたとんでもねえスピードでオレが待ってる歩道の前、オレの目の前を突っ切った。車線はみ出して対向車にぶつかりかけて慌てて避けたのか、最後にはちょっと奥の方でガードレールにぶつかり止まった。
前髪千切れたかと思った。

風が、止まる。
驚きすぎて、心拍数上昇。犬みてぇに短い息遣いを繰り返して、この衝撃を逃がすので精一杯だった。周りの騒がしさが全然耳に入んねえ。
警察が来んのかなとか色々考えたけど、やっべ、時間ねえ、てか今の状況が怖すぎる、ってなわけで引き止められもしねえから、その場を足早に立ち去った。

はっ、としてビルの方向いたら、誰もいなかった。


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