周子「だから、あたしが逢いに往く」
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43:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 20:20:22.70 ID:XnGtX3Tv0

 しかし黒煙の向こう側、周子という妖の規格を知らなかった。
 面倒な攻撃ではあるが致命傷には至らないこれらの紙切れを耐えながら、周子の意識は眼前の二人……ではなくもう一人に向けられる。
 
 当初茄子と芳乃しかいないと判断していた周子であったが、先ほどの式神の挙動で“もう一人術者が潜んでいる”と確信した。
 あれは式神が炎をすり抜けたのではない。
 全くの別方向から迫ってくるかのように見える幻術をかけられていたのだ。

「……そこか」

 未だ黒煙の止まぬ中からそう聞こえると同時に周子が放つ炎が天井のある一点を焼き焦がす。

「うわっと!?」

 爆ぜた天井から一人の影が転がり落ちる。少々煤にまみれてたが回避も受け身も難なく間に合い臨戦態勢は崩さない。

「心さん!お怪我は!?」

「バッキャロー!目の前の敵に集中しろ!そしてはぁと呼べぇ!」
 
 彼女の名は佐藤心。
 霞皇国元老院の一人にして皇室親衛隊“春霞”の教官の一人である。茄子と芳乃は彼女の教え子にあたる。
 此度の騒動をいち早く察知し茄子と芳乃を引き連れ周子をこの幻術と空間にて迎え撃った。

 御所が襲撃されるなど彼女にとっては前代未聞だが
 才か勘か或いは偶然か、まっすぐ中心部へ突き進む侵入者が只者ではない敵であると判断し
 討伐ではなく足止めを目的とした編成で一刻も早く対処に向かうことを優先して臨んだ。

「にしても何でこんなに早くバレるかなー?まさかとは思ったけどガチで妖怪なわけ!?」

「だったら……なんや!」

 周子の全身から炎が噴き出し纏わりつく式神を一枚残らず焼き飛ばす。
 その視線と殺意は心ただ一人に向けられていた。

「うわぁずいぶんと熱い視線送っちゃってまぁ、はぁとのことそんなに気に入っちゃった?ダメだぞ?」

 口ではそう言うが、この時の心は自身の生涯で最も精神を研ぎ澄ましている瞬間であった。
 妖というものを初めて見たのもそうだが、その規格が想像のはるか上にあることに内心焦りを感じている、それほどの強敵だ。

 それでも軽口は止めない。むしろ強敵だからこそだ。
 自分より格上の相手が終始冷静沈着に一分の隙もなく戦い続けたならそれこそ勝機は一つもない。

 感情の制御を怠るものは生き残れない。
 感情の揺らぎによるその隙が命取りとなることは散々習ってきたし実感もしている。
 見た所相手は一応言葉は通じるようだし自我もある。
 絡繰人形でないのならやりようによっては隙を生み出せるはずと考えてのことだった。
 怒りに任せた攻撃は直線的になる。そしてこちらは複数人。
 のらりくらりと躱しつつ時間を稼げれば勝利は近づく。
 
 そのはずだった。



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