16:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 19:16:39.14 ID:XnGtX3Tv0
人間は些細なことで思い悩んでしまうもの。
そんな者達をシューコは幾つも見てきた。
老若男女問わずそうだ。
一つ悩んで歩みを止めて、再び進んでまた悩む。
表にそれを出す度合いに差はあれど、一人でいる時のそれは分かりやすいことこの上ない。
ずっとずっと見てきたのだから。
紗枝に声をかけた時もそうだった。
元々気にかけていた少女ではあった。
不定期にやって来てしばらく遊んでは、持ってきたお菓子を石像の下に供えて帰っていく子。
今よりもまだ小さい頃から度々やってきては、汚れも知らぬ瞳を輝かせて境内に上がり込んで、
自分だけの秘密の場所を見つけたと言わんばかりに無邪気に走り回っていた。
どこで学んだのかは知らないが珍妙な作法で鐘を鳴らし始めたたときはどうしたものかと思ったが
この都に神仏への敬意の欠片が残っていたことに感心したものだ。
形はどうあれ目に見えぬ何かを敬おうとしていたことは伝わった。
シューコとて普段の振舞いは誉められたものではないのだからとやかく言うつもりもない。
昔から紗枝がここに残していった供え物については彼女が帰った後でこっそり頂いていたのだから。
そんなこともつゆ知らず、ずっと手を合わせて続けている姿は今思い出しても微笑ましい。
そんなある日のことだった。
突然、珍しく何の手持ちもなくただこの社へ駈け込んできたのだ。
何かあったであろうことは察知したが、いつもならただ見ているだけで干渉などしない。
かつてもこの場で沈んだ顔をしている者くらいはいたがそんな有象無象にいちいち姿など見せることはない。
だが、声をかけた。
暇を持て余したせいも勿論あったが、不思議とその項垂れる姿がどうにも目から離れなかったのだ。
シューコとしてもそんな自分が意外であった。
昔の自分からしたら随分と変わったものだと思う。
だが、これは別に慈善の心から民草を救ってやろうなどとそういったものではない。
そう、気まぐれだ。
いつまでも境内で泣きべそをかかれても困る。
単にそっと背中を押してやる、それだけだ。
偶にはそういうのも悪くはないだろう。そう考えた。
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