周子「だから、あたしが逢いに往く」
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14:名無しNIPPER
2020/05/05(火) 19:11:58.19 ID:XnGtX3Tv0

「で、この……文字、どういう意味なんだっけ?」

「えっとね、まずこっちが……」

 紗枝が身を乗り出して「紗」の字を指差す。
 具体的にこれといった一つのはっきりした由来や意味を表すべくつけられたものではなく
 音の響きや文字の意味、縁起云々や女の子へ持たせてやりたい華やかさ等、沢山考えられてつけられたのだそうだ。
 そう聞いた。

 薄く軽くそれでいて涼しげで靭やかな紗のように。
 風に揺れども受け流し、散れども再び芽吹く枝のように。
 数年前に気になって母に自身の名の由来を訊いてみた時を思い出す。
 意外そうにしながらも、どこか嬉しそうに語り聞かせる母のその表情を思い出す。
 

「――それでね、最近うちもひらがなやのぅてちゃんと書けるようになってん」

「……」

「……シューコはん?」

 急に静まったその横顔を見上げる。耳を傾けつつも視線はずっと木の葉に向けて。

「なんや……思ってたより、ずっと綺麗」

 大きくはっきりした目に対して少し切れ長気味なその目尻。
 それでも紗枝が見つめるその横顔は、いつもよりもやや目を細めているように見えた。
 文字ではなくその先にある何かを、紗枝が話したその情景を刻まれた二文字の先に見つめているような、そんな目だった。

 一瞬、涼しい風が吹いて、きっとお互い目を閉じて
 長めの瞬きが終わった時にはシューコはいつもの飄々とした表情に戻っていた。
 
「ああっと、ごめんごめん。ほんで何の話やった?」

「んもぅ、シューコはん」

 紗枝は頬を膨らませながら自身の努力の成果に話を戻しシューコもそれに合わせる。

「あーそうやったね……にしてもこの文字なんかかっこええな」

「せやろー?うちも何度も練習してん」

「紗枝ちゃんえらい」

 唐突にシューコが紗枝の頭に手を伸ばす。
 紗枝はくすぐったそうにするも、その感触にどこか懐かしさを感じていた。
 こうして頭を撫でてもらったのはいつぶりだろうか。
 一、二年前に母に撫でてもらったのが最後だったと思い出す。
 細くしなやかな指が柔らかく髪を僅かに梳いていく。
 絹のように整ったその髪を乱さぬよう、一見無造作のようでも柔らかく。
 随分と器用なことをするものだ。
 少しだけ恥ずかしい気がするも不思議とこの手を止めようとは思わなかった。
 


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