56:名無しNIPPER[sage saga]
2020/03/19(木) 23:57:04.60 ID:z07AMiQQO
いつまでも甘えたがりで、良くも悪くも無邪気な女の子だった日菜が、こうして私とお酒を飲んでいる。自分の中に抱える日菜の想像と現実の日菜の実像が、酔いにかき回される。どこか懐かしくて、どこか寂しくなるような、決して悪くはない気持ちが胸をくすぐる。
「おねーちゃんはずっとおねーちゃんだもんね」
日菜も同じ気持ちなのだろう。やや上気した頬を緩ませて、甘えるような声で言う。
「そうね。日菜もずっと日菜のままよ」
そう返して、グラスに口をつけた。
そうして、私たちは昔も今も、言葉を交わす。生まれる前からふたりで、生まれた後もふたりで、意味があったりなかったりする思い出を重ねて、覚えていたり忘れていたりする『今日』を重ねて、言葉を交わす。
十九歳最後の夜にお酒を飲んだこと、昔の話をしたこと。この日の特別だっていつの日かに思い返せば薄れているだろうし、きっと、今日にとってのあの日のように、お酒の席の肴になるんだろう。
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