18: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/02/24(月) 19:18:57.87 ID:3k7Y9koF0
―――さく、さく、さく。
まるで違う国に来てしまったみたいに、ここは静かだった。
―――じゃく、じゃく、じゃく。
茄子さんが雪の上にしゃがみこんで、雪と、その下の地面を掘り返していく。
わたしはそんな茄子さんの頭上に傘をかざしながら、その黒髪に、肩に、背中にほんのりと降りかかったままの雪の跡をじっと見下ろしている。
それは灰と呼ぶには綺麗すぎ、宝石と呼ぶには儚すぎる光の粒だった。
そうだ、これは儀式なんだ、とわたしは思った。
茄子さんが、茄子さん自身の支配から逃れるために続けてきた革命の行進、その尊い犠牲のための……。
「……ここには今、どれくらいの傘が埋められているんですか?」
「これでちょうど20本目、かな」
「どうして?」
わたしは思わず尋ねた。
「どうして」
茄子さんはまるで自分の名前を思い出そうとするみたいにわたしの言葉を繰り返した。
そして、
「ん〜……別に、これといった理由はないんだけど……ただ、なんだかこうしなくちゃいけないような気がするんです。やっぱり変かな?」
「ヘンっていうか……」
わたしは急に、自分のした質問を愚かしく感じて言葉に詰まった。
死者を弔うのに理由がいるだろうか?
それがたとえ道端に落ちていた傘だとしても、誰かの生活の一部だったことに違いはないのだ。
わたしは、気まずい思いからつい、視線を逸らしてしまう。
「……ほたるちゃんも、もしよかったらお祈り、してあげてください」
わたしは傘を閉じ、同じように傘をささずに雪をかぶっている茄子さんの、その細く冷たい手をそっと握る。
傘をなくした彼女の心が空へと消えてしまわないように。
彼女の中心にわたしが触れることは叶わないかもしれないけど……それでも、と。
それが、わたしの祈りだった。
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