26: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 19:57:19.38 ID:RvB9VQpu0
開演を告げるアナウンスがあって、幕が上がれば、そこには幾つかの光がある。
どれもまばゆい光だ。選ばれた光。
ひたむきに輝けるように、ゆっくりと磨かれた時間。
27: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 19:59:22.74 ID:RvB9VQpu0
「隣、失礼します」
低く優しい声に会釈を返そうとして、スーツ姿の男性を見上げる。
私は硬直するしかなかった。
28: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 20:00:44.58 ID:RvB9VQpu0
仕掛け人さまは、私の受け答えに一度怪訝な顔を見せて、
それからすぐに「しまった」と呟くと、急に不自然なほどにこやかになった。
「紬さんから、何か聞きましたか」
29: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 20:02:52.73 ID:RvB9VQpu0
「ありがとうございます」
なぜかその言葉だけは、すらりと口から溢れた。
「紬さんは、残さなくても良いのだと気付いたそうです」
30: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 20:13:35.81 ID:RvB9VQpu0
その音楽は、あまりに近くで響いた。
床がせり上がって、優しい光線がその姿を明らかにした時、
私は一瞬だけ、紬さんの視界を覗いた気がした。
31: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 20:21:13.98 ID:RvB9VQpu0
紬さんが歌えば、旋律の波が声を指示するように伸びて、
ささやかな身じろぎに世界は応える。呼応する。循環する。
私たちの記憶は果てしない遠さを帯びている。
32: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 20:32:13.43 ID:RvB9VQpu0
「あっ」
「おや」
私と仕掛け人さまの声は、ほぼ同時に上がった。
33: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 20:37:38.00 ID:RvB9VQpu0
曲が終わって、紬さんは美しく微笑んだ。
紬さんがとても大きなものを掴み取ったことを、私は知っていた。
「仕掛け人さま。私、ひとつ素晴らしい発見をしてしまいました」
34: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 20:44:21.90 ID:RvB9VQpu0
「あなたたちは、とてもよく似ています」
それが、仕掛け人さまの答えだった。
「似て、いるのですか?」
35: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 20:51:59.33 ID:RvB9VQpu0
「使いなさい」
仕掛け人さまから、青紫の布が手渡されて、
それから堰を切ったように、私の目から涙が零れ落ちる。
36: ◆u/54BSBlPw[sage saga]
2020/02/08(土) 20:57:57.62 ID:RvB9VQpu0
「あ、しまった」
仕掛け人さまは突然、間の抜けた声を上げた。
「今、目が合いました」
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