白雪千夜「私の魔法使い」
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88:23/27  ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 21:15:25.26 ID:ldlfMP+C0
「逆に考えてみよう。どういう時なら着けてもいいって思える?」

「どういう時、か。そうだな……。お嬢さまは可能な限り、私の贈ったものを身に着けてくださっている。お嬢さまと並び立てる時であれば、私も……気兼ねしないかもしれない」

「というと、ユニットとしてステージに上がった時だけ? 1年に何回、何時間着けられるかどうかだな……」

「それだけあれは私にとって特別なのです。……お前がいなければ、こんな悩みも持てなかった」

 ようやく顔を出した千夜から非難の色は見られなかった。アイドル活動を通して得られるものがあったなら、プロデューサー冥利に尽きる。

「じゃあ手始めに次のステージで着けてみようか? 衣装と合うか確認してさ」

「具体的に示されると心の準備が……」

「デビュー舞台でも緊張してなかったくせに。ちとせにも伝えとくから」

「待ちなさい。お嬢さまにはまだ内密に、気を持たせて失望させるわけにはいきません」

「もうとっくに失望してるんじゃないの? 僕ちゃんが全然身に着けてくれそうにないから」

「その名で……くっ、お前ぇぇええ……!」

 いつもなら食って掛かるところをもの凄い形相で睨みつけるだけに留まっている。反論出来なかったのだろう。

「まあ、ちとせに見放されるってことはないだろうけど、せっかくプレゼント出来るまでになったんだから最後まで喜ばせてやりなよ」

「それが出来れば苦労はしていない! お前は知っていたんだろうが、お嬢さまから戯れ以外であのような物をいただくことになるとは思わなかった。ただでさえ価値のない私が恐れ多くも、お嬢さまに贈り物をすることでいっぱいだったというのに……」

「それに関しちゃ千夜も大変だったのはわかる。でもな、千夜だってちとせをもっと喜ばせてやりたいだろう?」

「当然です。あの方もこういう時だけは私に命じてこないのですから。それともこれも戯れなのか……?」

「いや、本気だと思うぞ。自分から着けてほしいんだって。毎日あれを相手する身にもなれよ、気の毒で見てられない」

「お嬢さまをあれと呼ぶな。それにこの件は、私たちをこんな風に変えていったお前にも責任はあるはずだ」

「俺を巻き込むのやめない? いくら俺のせいにしたって、千夜がちとせの期待に応えられるかは別問題なんだから」

「……お前は私を見捨てるつもりなのですね。お前を魔法使いと信じてみてもいいと、思っていたのに」

「こういう時だけしおらしくしても、もう通じないからな」

「ちっ。お前も成長するのですね、良いことです」

「俺もう仕事戻っていい?」

「……そろそろお代わりが必要でしょう。何杯にしますか」

「複数確定なのか……何杯分こうしてるつもりだよ」

「私をその気にさせるまでです、さあやってみせなさい。お前は私の……プロデューサー、なのでしょう?」

「あーーもう、卑怯だぞ! こうなりゃ紅茶でも何でもいくらでも持ってこい!」

「まだ通じる手もあるようですね。覚えておきます」

「……500円だっけ、これで手打ちにしないか」

「そんなサービスは取り扱っていないと言ったはずですが」

  「……あのさぁ」

「千夜の淹れてくれる紅茶もコーヒーも美味しいよ。いくらでも飲んでいたい、それは本当。でも俺にも仕事が残ってるんだ」

「ふむ。では、私と仕事のどちらが大切なのですか?」

「仕事も千夜のことなんだよ! どっちもか仕事を捨てるかならどっちも取るわ!」

「ならこのままでいいですね。まったく余計な問答でした」

  「……おーい、千夜ちゃーん。魔法使いさーん」

「あのなあ……その気にさせるったって、どうすればいいんだよ。ユニットでの仕事を増やせってこと?」

「お嬢さまとの仕事は望みますが、それだけではありません。さあ、手腕が問われていますよ」

「なんで千夜が偉そうなんだ……。うーん、千夜をどうにかするよりもちとせに頼んだ方が早い気がしてきた」

「お前! お嬢さまに変なことを吹き込もうというなら、今ここで排除します」

「うわっ、久し振りに構えたな!? って、それそこの流しにあったアルコール除菌スプレーじゃないか! 置いてこいそんなもの、というか何で持ってきてるんだよ!」

「ご期待に沿えたつもりですが。では観念してもらいま……あっ」

  「……がぶっ」



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