白雪千夜「私の魔法使い」
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108: ◆KSxAlUhV7DPw[sage]
2020/02/04(火) 21:40:31.07 ID:ldlfMP+C0
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 お嬢さまの指示により、足を運んだ先は芸能事務所だった。

 何の前触れもなくアイドルになったと昨晩に宣言され、私を戯れに巻き込むためこんなところまで行ってこいという。いつものことながら、勝手なものだ。

 私に拒否権はないので、否が応でもアイドルとやらになることは決定している。突き返されたらその時はその時だ。どうせお嬢さまが何とでもしてしまうに違いない。

 せいぜいお嬢さまがこの戯れに早々に飽き、平穏な日々に帰れたらいい。私はお嬢さまの僕であり、アイドルなど務まりようもないのだから。

 そんなことを考えていると、いつの間にか指示された部屋があるところまで来ていた。

 ……初めて訪れた割には、スムーズに辿り着けたものだ。ここが目的地だとわかっていたかのような、そんなはずはないか。さっさと中に入ろう。

「失礼します」

 ドアを開けると、広さの割には物の少ない空間が広がっていた。

 人が集うにしてももっと小規模の部屋を使えばよさそうなものだが、事務所とはそういうものなのかもしれないと納得することにした。

 その閑散とした部屋の中にあるデスクから1人、スーツ姿の男性がこちらを見ていた。突然の珍客に驚いているかと思えば、どうもそうではないらしい。

 どこか遠くを見据えて懐かしむような、寂しげな目。初めて会う人間にするような顔をしていなかった。

 私はどうしてか彼にそんな顔をしてほしくないようで、胸の辺りがじわりと小さな炎でも灯ったように切なくなる。なんだというんだ……これは。

 よくわからない感情に振り回されてはいけない。彼ももう、そんな顔はしていない。

 私にはここに来た理由がある。大切な人の望みを叶えるため、為すべきことを為そう。

「お嬢さまよりここへ行けと言われました。だから来た。それだけです」







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