9:名無しNIPPER[saga]
2020/01/26(日) 17:56:59.59 ID:eEyX7Fuh0
肇が何度も深く頷くと、彼女は満足げな笑みを浮かべながら雑踏の中へ溶け込んでいった。
肇はその場でしばらく固まったままで、やがて気付いたように掌の紙切れを開く。
一分ほど黙読してから折り畳み、ようやく俺の近くにぎこちなく歩み寄って来た。
「楓さん、用事があったんですね。失礼な事をしてしまいました」
「……そうかもな」
「それで、あの、えと、えと」
しまったばかりの紙切れをポケットから取り出し、
手早く目を通すと、肇は再びそれを丁寧にしまい込んだ。
「せっ、かくですし、この辺りをぶらついてみません……か?」
「いや、服を見に来た筈じゃなかったか」
「……あっ……それは、その」
慌ただしく両手を泳がせながら、見るからに必死な様子で言葉を探していた。
少し面白かったのでしばらく黙って眺めてみる。
泳ぎ回っていた両手が徐々にろくろを回し始め、
やがて中途半端に開かれていた唇から、勢い、と小さな言葉が漏れ出した。
「ぶらついて、みませんかっ」
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