45: ◆ty.IaxZULXr/[saga]
2020/01/24(金) 21:46:53.43 ID:W4W9+UtG0
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旧校舎・地下2階・倉庫
どこで噛みつこうかしら、と身構えるのも疲れて来たわ。西園寺さんの話は雑談だった、よく話題が変わるたびに身構えていたら疲れて来た。私から、かな子の話をしてみても、反応もいつも通りのお上品な西園寺さんで拍子抜けするわ。時々人形を撫でる以外は、妙な行動もないし。西園寺さんが西園寺さんの話をしているだけ。クラスの話をしてみたけど、間違えたことは言ってなかったわ。かな子、大丈夫かしら。
「奏さんは、どうしてこちらに来たのですか」
「家を出たかったから、かしら。前の学校も好きじゃなかったし。そんなところよ」西園寺さんは黙ってしまった。雑な回答だったわね、前にも西園寺さんにあしらうように答えた気がするし。
「わかりませんわ、私には」
語気が変わったことに、気づける隙があった。
「奏さんは、家族と仲が良くありませんの?」
「そうね……上手く行ってないわ」
「そうでしたのね」
「父は粗暴で、母は悲劇のヒロイン気取り。居心地は悪いわね。連休も帰らなくていいなら、帰りたくなかったわ」
「それは……」
「西園寺さんのご家族はどうなのかしら。立派な人なのでしょう?」
「皆さん、そう思われていますのね」
「違うのかしら」
「いいえ。奏さんが思っているような人物ですよ、裏表はありませんわ」
「そう」
「父も母も厳しい人ですわ、弟には特に。父の跡をしっかりやるために、必要なことなのだとはわかっています。西園寺の家に産まれたのだから、仕方がありませんの」
少しだけ寂しそうに、彼女は言った。
「わかっていますわ。愛情があることなんて、わかっていますわ。何不自由なく、過ごせているのも、父と母のおかげですの。弟が苦労してくれるから、私は私の道を行くことができるのも、わかっていますわ」
わかっています、と彼女は繰り返す。自分に言い聞かせるように。
「でも、寮の部屋にいると考えてしまいますわ。ちとせさんがいない時は、特に」
「何をかしら」独りが好きじゃないのね、先日のことは後で謝っておきましょう。
「西園寺でなければ、西園寺に産まれなければ、普通の愛情を受けられたのでしょうか。奏さんも、そう思いませんか。お父様が粗暴とならないように育ったのなら、家を出ることもなかった、と、そう思いませんか」
「ええ、思うわ。父親が西園寺さんのような良い家の生まれなら、と」
ふふっ、と西園寺さんが小さく笑う。
「奏さんを、お呼びして良かったですわ」
「アナタは、どうして、私を呼んだのかしら?」
「私達、似てると思っていましたの」
「どのあたりが、かしら」
「愛されたいのですわ。普通の、人間のように」
「それが、あなたの夢?」
「……はい」
「ふふっ、あはは、おかしいわ、ふふふ」思わず笑ってしまった。
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