11: ◆ty.IaxZULXr/[saga]
2020/01/24(金) 21:18:34.08 ID:W4W9+UtG0
8
逢魔が時
学生寮・2号館・343号室
深く眠っていたはずなのに、目が覚めた。違和感。強制的に起こされた、音でも体を動かすのでもなく、脳を掴まれたように。横向きの体、かな子のベッドの方を向いていた。私の目は、月明りに浮かぶぼんやりとした人の形を捉えている。原因はあれ、わかりたくなくてもわからされる。それは、かな子のベッドに腰を掛け、かな子の寝顔を眺めていた。
自分が怪奇現象に巻き込まれるとは思っていなかった。扉も窓も鍵がしまっていて、人の形の輪郭はぼやけている。おそらく、20代前半の女性……。
かな子!という声がでない。金縛りのオマケ付き。瞬きも出来ない。ウェーブのかかった栗毛の幽霊の横顔が見えた。たれ目の優しい瞳は、何を思っているのか、わからない。服装は、学生でも生徒でもない、入院着のような……。
目があった。
次に何が起こるかわかった、心臓が跳ねる。冷や汗で体温が下がる。幽霊は私に近づいてきて、足音はしなかった、目の前に立った。幽霊の顔が近づいてきた。
あれ、と。
心臓の音は収まってきた。冷や汗は止まった。柔らかい表情をしていた、近くで見ると美人ね……危害を加える気がないのがわかった。幽霊の手が伸びてきても、恐怖心はなかった。
添えられた手から温もりを感じた、そんなはずはないのに。
少しだけ口は動くことがわかった。だれ……反応しない。なに……反応しない。
じっとこちらを見ていた幽霊が、ふっと表情を緩めた。ごめんね、と口が動いたような気がした。何に謝ってるの?笑顔は何も答えてくれない。
幽霊の手が伸びて来た。私の瞼を優しく閉じると、彼女の気配が消えた……気がした。
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