6: ◆OtiAGlay2E[sage]
2020/01/18(土) 08:50:07.45 ID:zfpFgTpfO
雪は好きだ。雪かきは大変だし、外出もままらななくなるのは不便だが、冬を感じられる。子どものころは冬になると雪が降るのを今か今かと待ち構えていた。
でも今は嫌いだ。こうして故郷のことを嫌でも思い出させられる。
あの男の誘いに乗って、幼いころの他愛もない夢と共に勢いに任せて故郷を飛び出してきた。家族や親しかった友人は誰もいない、この地にいるのは自分ただ一人。どれだけ忘れようとしても、故郷の情景と匂いをいっぱいに詰めこんだ手紙を載せたこの雪が、思い出させに来る。
7: ◆OtiAGlay2E[sage]
2020/01/18(土) 08:50:39.19 ID:zfpFgTpfO
突然、暗闇の中に光が生まれた。
ベットの上に無造作に置かれていたスマホが光り、周辺をほんのりと明るくしていた。
突然現れた光源を手繰り寄せる。手にとってみると、ブルブルと震えているのが分かった。そういえばマナーモードにしたままだった。
ブルーライトに目が眩みながらかけてきた相手を確認する。プロデューサーだった。
8: ◆OtiAGlay2E[sage]
2020/01/18(土) 08:51:07.08 ID:zfpFgTpfO
「もしもし」
『あっ!よかった繋がった。雪、大丈夫か?』
9: ◆OtiAGlay2E[sage]
2020/01/18(土) 08:52:04.69 ID:zfpFgTpfO
『どんどん降ってくるな。こりゃあ、明日はダメだな』
なんだかおかしかった。こちらの話も聞かずに勝手に話し続けるのだから。それほど焦っていたのだろうか。でも、少し温かかった。
10: ◆OtiAGlay2E[sage]
2020/01/18(土) 08:52:32.21 ID:zfpFgTpfO
「別に、金沢に比べたらこれくらいの雪などどうということはありません。もしかして、あなたは私が1人じゃ何もできない女だとお思いなのですか……?」
『い、いや。そうじゃなくてだな……。大切なアイドルに万が一のことがあってからじゃ遅いだろ?』
11: ◆OtiAGlay2E[sage]
2020/01/18(土) 08:53:26.68 ID:zfpFgTpfO
「大切なアイドル、それだけなのですか?」
雪にあてられたせいだろうか。普段ならまず言わないような言葉が口からこぼれた。
12: ◆OtiAGlay2E[sage]
2020/01/18(土) 08:53:52.07 ID:zfpFgTpfO
『…………』
「この雪が、まるで金沢から届いたようで、そう考えると今ここにいる自分が寂しく思えたのです」
13: ◆OtiAGlay2E[sage]
2020/01/18(土) 08:54:43.68 ID:zfpFgTpfO
『……そんなことないぞ、紬には劇場のみんながいる。そして何より、俺がいる』
「…………ふふっ。ご自分でそんなことを言って、恥ずかしくないのですか?」
14: ◆OtiAGlay2E[sage]
2020/01/18(土) 08:55:22.81 ID:zfpFgTpfO
『あー……なんか恥ずかしいな。ま、とりあえず明日は電車も動かないだろうし家で大人しくしててくれ』
「はい。では、おやすみなさい。プロデューサー」
15: ◆OtiAGlay2E[sage]
2020/01/18(土) 08:56:17.53 ID:zfpFgTpfO
そうだ、1人じゃない。たった数分間のやりとりだったが、紬は心にぽっかりとあいた穴に熱がこもるのを感じた。
さて、明日はともかく明後日はまず劇場の雪かきからだろうか。年少組はきっと大はしゃぎだろう。
とりあえず明日は何もできないのだから、プロデューサーの言う通り大人しておこう。アパートの前の雪かきをするのもいいかもしれない。確かスコップは置いてあったはずだ。
16: ◆OtiAGlay2E[sage]
2020/01/18(土) 08:56:43.10 ID:zfpFgTpfO
スマホを机に置いた紬は、部屋の電気をもう一度つけた。外は完全に白い絨毯で覆われていた。
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