3: ◆J2O9OeW68.[sage saga]
2020/01/04(土) 19:58:20.31 ID:hoMUvMIQo
通い慣れたレッスン場からの帰り道での出来事だった。
その声が果たしてどんな色を帯びていたのか、いまとなってはもう思い出せない。
かろうじて呼び起こすことのできるものといえば、車体を激しく打ちつける雨の音と錆びついたような耳鳴りばかりで、交わした言葉のほとんどが、喩えるなら古い映像作品の字幕みたいに、単なる記号としか記憶されていなかった。
あの日は朝からずっと酷い雨が降り続いていた。
私の淡い期待はどうやら空まで届かなかったようで、終業のベルが鳴りレッスン場へと向かう時間になってもなお、依然として雨脚が弱まる気配はなかった。
濡れたら嫌だな、と思いつつビニール傘を片手に校門をくぐると、向かいの歩道に、同じく傘を片手にして立っているその姿を見つけた。
曰く、ちょうど近くに来る用事があったから、そのついでに。
華奢な右腕に支えられた黒傘は不格好に大きくて、なのにスーツの裾が少し濡れていた。
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