渋谷凛「これは、そういう、必要な遠回り」
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7: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 20:27:37.04 ID:clFucneV0

■ 二章 体験入部


その夜はひどく冷え込んだ。

桜の時期に寒さが戻ってくることを花冷えなどというらしいが、まさにそれで、堪らず着ていたカーディガンのポケットに両の手を突っ込んだ。

はぁー、と息を吐けば白く濁るだろうかと考え、熱を思い切り込めて息を吐き出すも、当然だがそれは空振りに終わる。

携帯電話を見れば時刻は午後九時少し前であった。

駅前の雑踏を軽く眺める。働いている人たちにとっては休日前の金曜日は心躍る曜日であるようで、いつにもまして賑やかだった。

まぁ、学生である私も変わらないのだけれど。

というのも、先ほどまでクラスの友人に誘われ、カラオケに来ていた。学校終わりにお店に入り、それから今まで歌い通しであったので、心地よい疲労感が私を包んでいた。

余韻に浸っていたいのは山々だが、早く帰らないと両親(特に父)が心配する。

油を売っている暇はあまりない。

もちろん、今日の帰りが遅くなることは事前に伝えてあるし、愛犬であるハナコの夜の散歩は母に頼んである。

それでも心配をしてしまうのが親というものである。

どうやらそうらしい。

最近になって私はそれを理解した。

だから、できるだけ早く帰るに越したことはない。

人波に混ざって、駅の方向へと歩き出す。

制服を着ているというのにニコニコとして居酒屋さんへと呼び込みをかけてくるお兄さんたちをするすると避けるのも、すっかり慣れたものだ。

学校指定のローファーを鳴らし、来週は何か必要な提出物なんかはあったっけ、なんてことを考えていると、怒声が飛んできた。



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