渋谷凛「これは、そういう、必要な遠回り」
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42: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 21:56:27.13 ID:clFucneV0

「気付いてなかったの?」

「何が?」

「私、バレンタインデーに、男の人に本気でチョコを作るのなんてプロデューサーかお父さん相手にしかしたこと、なかったんだけどな」

「………………それは、ちょっと、反則じゃないですか?」

立ち上がり、彼の言葉を背中で聞く。

ずっとかたいベンチに腰かけていたからお尻が少し痛んだけれど、今はどうでもよかった。

「ほら、行くよ」

「どこに」

「お腹減ってない?」

「減った」

「減ったら、増やすべきだと思わない?」

「思います」

「だから、ご飯行こうよ。行くでしょ?」

「ああ、うん。行く」

「何食べたい?」

「おいしいの」

「おいしくない方が珍しいでしょ」

「なんでもいいよ、ってこと」

「なら最初からそう言ってよ」

「なんでもいい、って言い方はあんまり良い気しないかなぁ、と」

「……これ、案外難しい質問なのかもね」

どこか既視感のあるやりとりを経て、歩き出す。

久しぶりにいる、隣を歩く存在は、最初からそうであるかのように、馴染んだ。



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