30: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 21:41:23.64 ID:clFucneV0
何かを教えられた気もせず、お礼を言われるほどのことができたとも思えなかったので、どうにも受け取り辛い感謝だったが、ここで否定しても良いことはないと判断して、私はそれを受け取った。
そして、いくら私がかつての関係者と言えども、今を全力で駆け抜けている子たちの邪魔をする権利はどこにもない。
あまり長居してしまうのはよくないだろうと思って、ここらで失礼しようと慶さんに申し出る。
すると、慶さんに「なんか、無理やりでごめんね」と謝られてしまった。
私自身、久々に本気で踊ることができて楽しかったし、懐かしい思いをさせてもらったので何も迷惑には思っていないことを簡単に伝える。
すると慶さんはぱぁ、っと笑顔になって「よかった」と言った。
帰り際、女の子たちが私のもとへ寄ってきて握手を求められる。
それに応じて、私は再び「なんか邪魔しちゃってごめんね」と詫びた。
「そんな、とんでもないです」
「何か力になれたら良かったんだけど……あっ」
「?」
「歌に関してなら、教えてあげられるかも、って思って」
「えっ、いいんですか?」
「うん。やってた習慣とか、やってたトレーニングとか、あとはちょっとした相談なんかでもいいんだけど、そういうことでよかったら聞くからさ。もしよければ、でいいんだけど、連絡先交換しない?」
鞄から携帯電話を出して、メッセージアプリを操作する。
私が自分のプロフィールページを見せると、二人は飛ぶような勢いでレッスンルームを出ていった。
かと思えば、ものの一分少々で戻ってきて、その手には携帯電話が握られている。
更衣室まで走って行って、取って来てくれたのか。
なんだかまた申し訳ないことをした、と思いながら連絡先を交換させてもらった。
「大事にします!」
まさか連絡先を大事にします、なんて言われる日が来るとは思わなかったが、笑って流す。
「ホントに気軽に連絡くれていいからね。私はもう芸能人じゃないんだし、先輩とかそういうことも気にしなくていいから……そうだなぁ、近所のお姉さんとかそんな感じでいいよ」
ひらひらと手を振って、レッスンルームを出る。
借りていたダンスシューズを返して、スリッパに履き替え、ぺたぺた鳴らして私は受付へと戻るのだった。
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