渋谷凛「これは、そういう、必要な遠回り」
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28: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 21:37:50.77 ID:clFucneV0

久しく、忘れていた感覚が蘇る。

慶さんの指先が再生ボタンに触れて、押されるまでの一瞬の動作がスローモーションで見えていた。

一秒に満たない静寂。

その後に蹴り出すような前奏が始まった。

疾走感溢れるこの曲は、当然ダンスも激しい。

この振り付けで、これだけ動かせてマイクへ綺麗に歌声を乗せろというのだから、プロデューサーもトレーナーさんも鬼畜である、と当時は思ったものだ。

でも、それだけに「できた!」となったときの達成感もひとしおだった。

失敗するたびに怒られて、間違えるたびに泣きたくなって、それでもやり遂げた。

そういう一つ一つで私は、アイドル渋谷凛はできていたのだということを今更になって、気付く。

数年越しに本気で踊るというのに、足は思ったように動いて、指先にまで命令がすんなりと通る。

自分の体をちゃんと自分が操縦していた。

やれ、と命令した指示が足に腕に指先に、首に、腰に、果ては表情にまで行き届く感覚。

私は、しばらく忘れていた楽しさに酔いしれた。



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