51: ◆x8ozAX/AOWSO[saga]
2019/12/04(水) 18:44:35.76 ID:86FQdztyO
「……もう、やめてくれ……分かったから……もう、諦めたから……」
『うふふ、やめませんっ』
イタズラっ子の様に。
千雪は、そう笑った。
『っ! ゛ん゛ぁ゛ぁぁぁぁぁっっっ!!』
『この幸せを捨てたいだなんて』
鈍い音が響く。
『戻りたいだなんて』
鈍い音が響く。
『そんな哀しい事、考えないで下さい』
鈍い音が響く。
『……分かってくれましたか?』
何度も、何度も。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
その度に響く冬優子の悲痛な叫び声は、少しずつ小さくなっていった。
『……ねぇ、兄さん。分かってくれましたよね?』
「……あぁ」
……もう、良いんだ。
希望なんて持っちゃダメだって、冬優子も分かっただろ。
無理なんだよ。
信じたところで、意味なんて無いんだよ……
『ふふっ、良かった』
『なに……が、よ……なに、分かってんのよ……』
「っ、冬優子っ?!」
途切れそうな、消え入りそうな声で。
それでも冬優子は、言葉を続けた。
『……しん、じ……なさいよ……』
「冬優子! もう良いんだ! 頼むから今は」
『まぁ、まだ喋れるなんて……冬優子ちゃん、とっても強いのね』
再度、鈍い音が聞こえた。
なのに、冬優子の言葉は止まらなかった。
『……あきらめるんじゃ、ないわよ……ぜったい……っ!』
……ああ、そうだ。
俺は……
『おやすみなさい、冬優子ちゃん』
鈍い音と同時、通話が切れた。
立ち竦んでいた。
もう俺は、動けないでいた。
心が感情を処理し切れていなかった。
冬優子を失ってしまった喪失感で、俺は何も出来なかった。
……それでも、決まっていた。
次の俺が、やるべき事を。
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