18: ◆x8ozAX/AOWSO[saga]
2019/12/04(水) 18:23:23.68 ID:86FQdztyO
ふふ、と笑う千雪。
釣られて俺も笑いそうになる。
良かった、バレていない。
普段からズボラな自分で良かった。
「大切なメモを出しっ放しにしておいた、とか」
今度こそ、完全に俺は呼吸出来なくなっていた。
微笑む千雪の手には、メモが一枚。
それは今俺が必死になって探そうと、隠そうとしていたものだった。
扉の隙間から見える部屋の外には、甘奈も居た。
甜花も居た。
三人とも、幸せそうな笑顔で。
俺はもう逃げられないと悟った。
「…………兄さん。このメモを見て、どう思いましたか?」
「……訳が分からないな。永遠に? 出れない? なんの事だ?」
「…………ふふ……誤魔化さなくっても良いんですよ? 兄さん」
ダメだ、もう完全にバレている。
微笑んではいるが、千雪の目は獲物を追い詰める肉食獣のソレだ。
絶対に誤魔化さない。
正直、泣きそうだった。
「今朝偶然見つけて良かったです。こんなメモを残せるなんて……」
あの時か。
散らばった書類を集めてくれた時点で、彼女に既に取られていたのか。
「……良いんですってば、兄さん。私は怒ってなんていませんから」
それはきっと、本心なのだろう。
千雪は別段怒ってなどいない。
ただ、出来の悪い生徒を叱る様な。
しつけとして靴を揃えるよう言う様な、そのレベルなのだろう。
「……このメモだけは、きっと私でもどうしようも無いんです……こんな、私たちの幸せを邪魔するものなんて……ある筈ないのに……」
底冷えする様な、刺す様なトーンで。
千雪は、メモを睨んだ。
「……でも大丈夫、兄さんはどうせ全部忘れますから」
「待っ」
そう言って、千雪が手に持ったメモを破いた。
たった、それだけだった。
「それと兄さん、他にもメモはありませんか?」
「ん、あぁ。確か……」
ポッケに入れていた筈だ。
今朝入れたのを覚えている。
何故入れたのかは思い出せない。
確か、見つかっちゃ不味いと思ったんだったかな……
まぁ、思い出せないと言う事は大した事ではないのだろう。
「これ、何故か机に乗っててな」
「要らないものなら、捨ててしまいましょう」
千雪に渡すと、破いてゴミ袋に捨ててくれた。
さて、掃除の続きをしよう。
「ところで兄さん、そろそろお昼ですけどお腹は空きませんか?」
「ん、確かに。千雪が作ってくれるんだったか?」
「はい。楽しみにしてて下さいね?」
「あぁ、楽しみだ」
他愛の無い会話を千雪と続けて。
千雪が作ってくれる昼食が楽しみで。
二人で、二人きりで過ごすこの時間が。
とても、幸せだった。
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