13: ◆x8ozAX/AOWSO[saga]
2019/12/04(水) 18:19:16.58 ID:86FQdztyO
「ふふ、兄さんったら……そんなに焦って、何処に行ってたんですか?」
「……掃除機、取りにな。千雪が持って来てくれてたか」
俺が全て思い出した事を、千雪に知られてはいけない。
それを俺はイヤと言う程、身に染みて理解していた。
「……ふふ、そうですか。それじゃ兄さん。お掃除、始めましょう?」
「そうだな。今日一日でさっぱりさせちゃおう」
掃除機をコンセントに繋いでいる千雪を見ながら、俺は考えた。
書類に挟みっぱなしだった『永遠に出られなくなってしまった』というメモも、千雪に見られない方が良いだろう。
アレを見られてしまえば、千雪にバレてしまう。
バレてしまえばどうなるか、どんな対応を千雪がしてくるかを、俺は身をもって知っていたから。
書類の山の、その一番下。
そこに、メモがある。
今千雪はコンセントにプラグを刺す為壁側を向いている。
バレずに回収するなら、今だ。
「……ねぇ、兄さん」
「ん、どうした?」
「お昼ご飯は私が作っても良いですか? お夕飯は甘奈ちゃんが作るって言ってましたから」
「ああ、勿論だ」
「何かリクエストはありますか?」
「千雪が作ってくれたものなら、何でも嬉しいよ」
他愛の無い会話をしながら、俺は書類の一番上を見る。
先程まではさっぱり分からなかったが、今では全てが理解出来た。
イルミネーションスターズの握手会、放課後クライマックスガールズのドラマの撮影。
L'Anticaの芋掘り体験、ストレイライトの水着の撮影。
そして、アルストロメリアのライブ。
俺は、彼女達の、283プロダクションのプロデューサーだ。
忘れてはいけない事はそれだった。
忘れる筈が無い、現に思い出せた。
何故忘れていたのか考えるのは後だ。
今はそれより、メモの回収を……
「ふふ、兄さん。何を探しているんですか?」
千雪の声の音量が大きくなっている事から分かる。
既に彼女は、此方を向いていた。
当たり前だ、プラグをコンセントに刺すのに大した時間はかからない。
プロデューサーである事を思い出して感傷に浸る暇なんて無かった。
そしてこれは、確信でもあった。
千雪は、俺を疑っている。
俺が全てを思い出してしまった事に、気付きかけている。
それでも大丈夫だ。
決定的な証拠さえなければ、ボロさえ出さなければ。
千雪だって、この『幸せ』を自ら手放そうとはしないだろう。
「……捨てちゃいけないものとかもあるだろ。皆んなで撮った写真とか、机に出しっぱなしで混ざっちゃってたかもしれないし」
「そうですね……もうっ、いつもちゃんと整頓しておけばそんな事にはならないのに……」
ジト目でお説教をしてくる千雪。
こんな状況でなければ、そんな彼女も可愛らしいと思えただろう。
「それに、兄さんは要らない物をとって置き過ぎなんです」
「そう言うなって。思い出の品とか捨て辛いだろ?」
「そう言ってまた部屋を物で溢れ返らせるんですから……」
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