白雪千夜「足りすぎている」
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5:名無しNIPPER[saga]
2019/11/22(金) 20:53:59.86 ID:QXbKSZYO0
 窓を開け、書斎の埃をはたき、桟を雑巾で丁寧に拭く。
 屋敷の部屋数は多く、床掃除には掃除機より箒の方が取り回しは利く。
 一度、お嬢様がルンバを買ってきたことがあったが、物と段差が多いこの屋敷では限られた場所しか機能しない。精度も知れている。

 黒埼家の従者となってしばらく経つ。
 ブランクはあれど、この屋敷もルーマニアへ発つ頃と何も変わっていない。
 私には、誰よりもこの屋敷の構造を理解しているという自負がある。

 そう。私にはそれで十分だった。
 人には分というものがあり、相応の役割がそれぞれにある。
 華やかな夢に彩られた人生を送る人もいれば、それを支える人もいる。
 何に価値を見出すのかは、自分が決めること。

 だというのに、お嬢様の言動にはしばしば理解に苦しむものがある。困ったものだ。
 第一、すごく大きな人が来るとか――何かとアバウトが過ぎる。

 改めて嘆息しながら、お嬢様のベッドのシーツを直していた時、呼び鈴が鳴った。


 招かれざる客が来たか――。

 私は手短に最低限の身だしなみを調え、玄関に歩み寄ってドアスコープを覗き込んだ。

 視界は真っ黒だった。
 おそらく、その男のスーツだろう。ドアのすぐ傍に立っているとは、よほど勇んだ性格と見える。

 お嬢様はああ言っていたが、いざという時は、その手合いを呼ぶことになるだろう。
 私は覚悟を決めて、慎重にドアを開けた。



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