白雪千夜「足りすぎている」
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281:名無しNIPPER[saga]
2019/11/24(日) 01:47:30.94 ID:Hn+oLRjQ0
 ダンサブルな曲でもないはずなのに、舞台袖に向かう脚がフラフラしている。
 お嬢様は、一体どれほどの極限にいたのだろうか。

「チヨ!」

 顔を上げた。
 アーニャが――星空を纏う大きな瞳がボロボロとその光を落として、私に駆け寄ってくる。

「チヨ……!」

 激突するかのような勢いで、抱きしめられた。
 私よりも体の大きいアーニャの力は、思いのほかかなり強く、正直言って息が苦しい。

「アーニャ……」

 私は、ステージの上では、泣かなかった。
 でも、危うく、あともう少しの所で泣くところだった。
 舞台袖に戻ってからだって、あともう少し――。

 もう少しで、我慢できたのになぁ。

「スパシーバ……チヨ、スパシーバ……!」
「アーニャ、やめて、ください……う、うぅ……!」

 手を握り締めてもらえるだけで温かい彼女の体は、私のキャパシティを優に超えていた。
 堪えきれず、私の目から温かな涙がいくつもいくつも地上に落ちていく。

 感謝をしなくてはならないのは私の方だった。
 でも、言葉以上に私と彼女は、その身を抱きしめることで心を分かち合った。



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