白雪千夜「足りすぎている」
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270:名無しNIPPER[saga]
2019/11/24(日) 01:11:41.45 ID:Hn+oLRjQ0
 曲に入る前のMCは、当初の予定にはなかった。
 私は、何を言っているのだろうな――。

 だが、スルスルと言葉が次から次へ、溢れてくる。

「先ほどの、黒埼ちとせさんのステージ……
 あれに匹敵するほどのクオリティを、今日の私が皆様へご覧に入れる事は、難しいでしょう。
 それどころか、これから私が歌うのは、今日お越しいただいた皆様に対してではなく、私にとって大切な、とある方のためのものだということを、謝らなくてはなりません」

 会場を見渡した。
 ここからでは、暗がりにいる観客一人一人の顔は見えないが、皆が私の言葉に耳を傾けていることが分かる。

「今夜、私は、この一曲を歌いきる間だけ……この空間を私のものにします。
 それでも、結果として良いものを作り上げられる、皆様を楽しませるものにできるのだと……独りよがりの盲信に浸ることを、どうかご容赦ください。
 そして」

 大きく息を吸い込み、手をゆっくりと差し伸べた後、その手を胸の前に引き寄せた。
 曲が始まる合図だ。


「楽しんでいってください」



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