50:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 23:35:47.46 ID:PR8wYl2Go
「あっ、ごめんなさい唯先輩」邪魔をしちゃったな、とすぐ悟りました。
そう言うと、唯先輩はくしゃっと顔を崩して、さりげなく、まるでさっきからそこにあったかのように、自分の左手を、私の右手の中へ滑り込ませていきました。
「これなら邪魔にならないよっ」
無垢な笑顔で私にそう言いました。
私は返事代わりに、うつむくように頷いただけでした。
51:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 23:36:56.40 ID:PR8wYl2Go
それでも唯先輩は満足げに笑って、再び夜空に目をやりました。私もつられて顔を上げると、右腕にとん、と唯先輩の肩がもたれかかってきました。
「あずにゃん」
そう呼びかけられなかったら、私はまた横を向いて、何をしてるんですか!? なんて身構えたかもしれません。ただ、そんないつも通りを過ごすには、唯先輩の仕草が、私に語りかける、真剣な響き故に小さくなってしまった声が、それが私にしか聞こえない奇跡みたいな状況が、あまりに特別過ぎました。
52:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 23:37:35.07 ID:PR8wYl2Go
「……どうしましたか、唯先輩」
空を見上げたままそう尋ねました。
「あずにゃん、私、やりたいことを見つけたよ」
ほら、こうして良かった。その一言に思わず強張った横顔は、花火が昇る今ならきっと、唯先輩に見えていないでしょう。
53:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 23:38:55.54 ID:PR8wYl2Go
「私、ここに戻って来て、あずにゃんとこうやって一緒に夏祭りを楽しんで、ちょっと分かった気がするんだ。変わらなかったのは、やりたいことをもう既に見つけてるからじゃないのかな、って。でもそれを始める引き金が、まだ私に無かっただけなんじゃないかのかなって。あずにゃん。私はもっとギターをやりたい! 放課後ティータイムとしてだけじゃなくて、もっと、もっと!」
どどどん、と一段大きな音がしました。でも、その花火がどれだけ立派だったのか、私は知る由もありませんでした。だって……
54:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 23:40:16.53 ID:PR8wYl2Go
「だからあずにゃん! 大学生になったら、私と二人で、一緒にギターをしてください!」
その瞬間、唯先輩は私の手を両手に包んで、まるで告白まがいなことを大真面目に言うのですから……
55:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 23:42:54.69 ID:PR8wYl2Go
「な、なな、何をいきなり言うんですかぁ!?」
突然の途方もない誘いを受け入れられる度量も無く、とうとう我慢できず悪い癖が出てしまいました。でも、
「…………唯、先輩……」
慌てふためいた拍子に揺れた身体も、唯先輩にがっちりと包まれた右手だけは微動だにしませんでした。
「あずにゃん、お願い……」
56:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 23:44:12.41 ID:PR8wYl2Go
「……もう、唯先輩は勝手です。私の都合なんて知らんぷりであずにゃんあずにゃん、って……」
「あぅ……」
唯先輩の両手がびくっと引っ込んだ気がしました。違う、こんなのが私の気持ちじゃないのに……。唯先輩が勝手なら、私だってよっぽどワガママだ。
……でも、同じワガママなら、背伸びでも屈みでもして唯先輩と目線を合わせることだって出来るはずだ。
私は息を一つ吸って、言いました。
57:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 23:46:26.41 ID:PR8wYl2Go
「……半年です」
「ほえ?」
「私の受験が終わって、唯先輩と同じ大学に入って、その時にも唯先輩の気持ちが変わらないなら、また誘ってください。……私の気持ちは、絶対に変わりませんから」
唯先輩の顔に、パッと笑顔の花が咲きました。
「あずにゃん、ありがと〜!」
58:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 23:49:36.08 ID:PR8wYl2Go
変わること、先に進むこと。それはまだどうしようもなく怖い。大切な物がふいになってしまう位なら、ずっと今のままで居続けていたい。
でも、これでまた四年の間は先輩の背中を追いかけていられる。答えは唯先輩と一緒に見つけていこう。見た事のない世界をたくさん見せてくれた、この人とならきっと見つけ出せる。
もしその道程で何かが変わってしまっても、その目の前に変わらず唯先輩がいてくれるのなら、大事な物は、そのままでいてくれる。そうに決まってる。
59:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 23:52:16.26 ID:PR8wYl2Go
三度、私は空を見上げました。花火は終盤に差しかかったのか、間髪入れず次々打ち上がり空に咲き乱れて行きます。色とりどりの、輪郭がぼやけた花が空高く咲き乱れ、その下では菜種色の炎が控えめな花を咲かせ、水面にたゆたう葉のようにはらはらと花弁を散らしていくのでした。そこに無粋な余白など、どこにもありはしませんでした。
夏が終われば、何かが変わる。そんな移ろう季節の真ん中は、全てが鮮やかに輝いていました。
60:名無しNIPPER
2019/11/10(日) 23:56:02.39 ID:PR8wYl2Go
ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました。楽しんでいただけたら幸いです。
読みづらい文章だったらごめんなさい。これが今のところの、文章力の限界です。
次に投稿する時は、もっと文章力や見せ方を向上させてきます。
再度、ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました!
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