10:名無しNIPPER[sage saga]
2019/11/04(月) 22:24:29.60 ID:c2i0tNU+O
「これならどうだ!?」
侵入スピードを間違えた振りをして突っ込む。
明らかなオーバースピード。やりすぎた。
ちょっと派手に停車するつもりが停まらない。
ギュオオオオオオォォグアッシャンッ!!!!
「くそっ!」
スピンして藤原のパンダトレノと向き合った。
「頼む! 避けてくれぇえええっ!?!!」
もうブレーキはベタ踏み状態。
体勢を立て直すことは諦めて。
あとはひたすらに祈るだけだ。
ドッギャアッグォオオオオオォォオォ……キッ!
完全に取り乱した俺とは対照的に、藤原は神業的なハンドルさばきとアクセルワークで、コンパクトにコーナーをクリアして追い抜いてから華麗にターンを決めて停車した。
「はあ……はあ……」
「拓海くんっ!」
なつきがクルマから降りていく。
俺はぐったりとハンドルに突っ伏した。
今のはヤバかった。というか気まずい。
ノリと勢いで悪役を演じたが、やりすぎた。
具体的には、恐怖のあまり脱糞しちまった。
「フハッ!」
だいたいこんな恋のキューピッドみたいな役回りは、俺には初めから不可能だったのだ。
我ながら馬鹿らしくて、嗤えて、泣けてくる。
また藤原に殴られるのだけは勘弁して欲しい。
「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
そんな願いが届いたのか、あるいは愛車のシートを糞まみれにして嗤う俺の盛大な哄笑を不気味に思ったのか、なつきをハチロクに乗せた藤原は何も言わずにその場から立ち去った。
バタムッ!
「上手くやれよ……藤原」
プォオオオオオオン……カァアアアアアァン……
しんしんと雪が降り積もる秋名の山道に独りポツリと取り残された俺の呟きは、ハチロクに積まれた11000回転まできっちり回るグループAの競技用エンジンをデチューンしたと思われる5バルブ仕様の4AGが奏でる小気味良いエキゾーストノートによって、誰の耳にも届くことなく、かき消された。
【頭文字M】
FIN
12Res/14.06 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20