三船美優「最後にキスをして」
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7: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2019/08/19(月) 23:06:12.62 ID:rNK9Zl/t0
「あ……プロデューサーさん。……で、合っていますよね?」

 待ち焦がれていた、彼女がいた。
 所在なさげに辺りを見回していたが、こちらに気づいて歩み寄ってくる。

「……! はい、間違いないです。三船、さん?」

「はい。そういえば私、名乗りもしていなかったんですね……。三船美優と申します。アイドルについて、詳しく伺いに来ました」

 深くお辞儀する彼女……三船さんに遅れてぺこぺこと会釈を返し、応接室の一つに案内する。
 随分と緊張した様子で、それがこちらにも伝染して僕までぎこちなくなってしまった。
 奇妙な遠慮のしあいで時間をかけながら、どうにかお互いが席に着く。

「では改めて、三船さん。アイドルになるつもりでここに来た、ということで間違いないですか?」

「はい。その時は……プロデューサーさんが、私を導いてくれるんですよね」

「もちろん、そのつもりです」

 僕の答えに、三船さんは満足そうに頷いた。

「ふつつか者ですが、よろしくお願いします。プロデューサーさん」

「……っ。はい、こちらこそよろしくお願いします」

 ちょっとした言い回し一つで、どきりとする。
 毎度毎度この有様じゃプロデュースなんてままならないだろうに、我が事ながらどうしようもない。

 その後、契約に関する話と書類の記入を終えて、簡単に事務所を案内することにした。
 オフィスに始まり、レッスンルームや衣装室を歩いて回る。

「壁一面が姿見になっている部屋は、初めて見ました。あそこで、踊りのレッスンを受けたりするんですね」

「はい。防音設備も整っていて、歌のレッスンも演技のレッスンも、外の施設を使わない時はだいたいあそこです」

「私もいつかそこで……なんて、まだ実感が湧きません」

「はは、いつかと言うほど遠い話でも、大それたことでもないですって。レッスンはみんな最初に通る道です」

 少しばかり大げさな三船さんの言葉を茶化すように返す。
 だけど彼女は神妙な表情を浮かべたままだった。

「それでも。歌って、踊って……なんて、私にとっては未知の世界ですから。やっぱり、まだよくわからないことも多くて」

 彼女は自嘲するように眉を下げる。
 とはいえ声の調子からは、気が重いだとか、そこまでネガティブなものは感じない。

「そこは、一つ一つ知っていきましょう」

「それも、そうですね。……これから」

 得意も苦手も、これから少しずつ定まってくるんだろう。
 三船さんにとって、なるべく充実したものになることを願うばかりだ。


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