163: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2020/02/24(月) 21:19:50.82 ID:cZJ7+2AW0
波を切り、風を切って、船は悠々と進んでいた。私は甲板で行き先を見ている。何もない海原を。
平和な海だった。水平線の上に僅かな積雲が積み重なっているばかりで、空は遠近法によってその青さをどんどん薄めていく。
それは喜ばしいことだった。そのはずだった。医者や警察は暇であればあるほどいい。兵士もまた然り。だから、私がこうして甲板でのんびりしていられるということは、世の中が平和な証左でもある。
髪の毛が乱れる。風が体温を奪う。体がぶるりと震えたので、そろそろ頃合いか、踵を返して鉄扉を目指した。
体内で熱が渦巻いている気がした。
それは後藤田提督が言うには「怒り」なのだ。私は姉さまのように諦めを無駄に抱いては生きられない。胸に怒りを抱いて生きていて、深海棲艦も、海軍も、この世に普くありとあらゆる不幸も、とかく私を苛立たせる。
脚を向けた談話室では大鷹がノートに書き取りをしていた。離れたソファでは不知火が文庫本を読んでいる。
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