【シャニマス SS】P「プロポーズの暴発」夏葉「賞味期限切れの夢」
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24: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/08/18(日) 02:34:38.92 ID:oj63shz20
 女性はきょとんとしていた。まさか自分なんかに憧れの人が何かを訊ねてくるなんて、といった顔だ。夏葉は普段通りの微笑だ。だが俺にはわかる。夏葉は自分の声が震えてしまわぬように、笑顔の下で神経を張り詰めていた。

「――アナタは、なぜ結婚しようと思ったの?」
 夏葉が訊く。その問いかけに、女性は申し訳なさそうに縮こまった。

「え、えっと……どういうこと、でしょうか……?」
「さっきの話だと、彼の方から婚約を申し込まれたみたいだけど……それを受けた理由を教えて欲しいの」
「あ、そういうことですか」

 彼女は頷いた。そして隣の男性の裾をちょこんとつかみ、赤面した。

「わたし、昔からそそっかしくて。それでいっつも、――くんに助けられてて。だから……彼が望むことなら、なんでも応えてあげたいなって、そう思ったんです」
「……なんでも、なのね」
「はいっ! わたしにできることなら、なんでもです!」

 咲くような笑顔で女性が答え、男性はそっぽを向いた。それはまるっきり少年少女のようだった。微笑ましくて、とても遠い。
 男性は照れ臭そうに頭を掻いた後、女性の手を取った。

「そろそろ行こう。バスが来ちまうよ」
「え、もう? まだ夏葉さんとお話してたいよ。それにバスの時間はまだ……」
「いいから。これ以上、お二人の邪魔をしても悪いだろ」
「……あ、うん。それもそうだね」

 ひそひそ話を終えて、みたび二人は頭を下げた。やはり女性の方のお辞儀は深々としていた。

「じゃあ、俺たちもう行きます。夏葉ちゃんに会えて本当に嬉しかったです」
「私も久しぶりにファンと交流できて楽しかったわ。また何処かで会えるといいわね」
「そ、その時は、なにとぞ宜しく……お願い致し……そ、そうろ……?」
「ほら行くぞ」

 女性の手を引き数歩進んだところで、男性は立ち止まりこちらに向きなおった。

「あの、俺からもひとつ訊いていいですか。俺、『ロミオとジュリエット』の頃から夏葉ちゃんと樹里ちゃんのファンなんですけど……」
 男性の方はかなり古参のファンだった。

「結婚された後、女優として復帰とかはありえます?」
 純粋な期待を込めた視線に、夏葉は首を横に振った。

「ごめんなさい。まだそこまで先のことは考えてないの」
「そうですか。じゃあ今度こそ、俺たちはこれで」
 最後にばっちり揃った会釈をして、カップルの二人は礼拝堂を後にする。礼拝堂の扉が閉じるまで、夏葉はその姿をじっと見つめていた。礼拝堂内に木戸のきしむ音が響いた。


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