双葉杏「透明のプリズム」
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96: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 03:05:52.67 ID:OJA0wgUK0







扉の前で僅かに気を引き締める。
目を閉じて二回深呼吸してみて、初めてここに来たときもこんな感じだったことを思い出した。

私は緊張していた。
緊張しない性質なのだと思っていた。
どんな大きな番組であろうが生放送であろうが、私は緊張とは無縁だった。

でもそれは、アイドル双葉杏という殻が自分を守っていたからだ。
今の私は、本当の自分――一人の人間としての双葉杏だ。

左手に握っているうさぎのぬいぐるみを、両手で持ちあげてみる。
そいつの間抜けで心底何も考えていないような顔を見ると、少しだけ緊張が和らいだ。



扉を押して中に入る。
彼はいつも通り、奥のデスクで作業をしていた。
私を視界の縁に入れると、すぐに穏やかな面持ちを作った。
飴玉を要求すると、彼は引き出しから一個を取り出して、私に投げてよこした。


「ね、プロデューサー。こっち来てよ」


ソファーに座るように催促すると、渋々といった表情で私の横に腰掛ける。
私は目の前に飛んできていた飴玉を口に含んだ。
緑色の包みにはメロンの写真が印刷されていた。
果物系統の飴玉は基本的にハズレがない。私は飴玉を舌で堪能しながら、用意してきた言葉を口ずさむように呟く。


「大事な話があるんだ」







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