32: ◆YF8GfXUcn3pJ[saga]
2019/08/18(日) 02:23:20.74 ID:OJA0wgUK0
☆
私の想像に反して、一週間が経過しても、プロデューサーからの接触は無かった。
携帯電話の受信欄はこまめに確認していたけれど、当たり前のようにメールも電話も来ていない。
エレベーターの前で7階のボタンを押すことを躊躇っているうちに、誰かがやってきて、諦めて8階のボタンを押す。
そんな日が一週間続いた。
その日は4月に入って初めての水曜日だった。
プロデューサーが飴をくれるはずの曜日でもあった。
先週と同じくオフだった私は、家でただ横になっていた。
そのまま一日を終えるつもりだった。
テレビをつけて朝のニュース番組を観ていた。
スタジオのセットはすっかり装いを変えていて、桜だとか土筆だとか、春っぽいモチーフで彩られていた。
――ふと、来週から新学期だということを思い出した。
来週から学校が始まるということは、それはつまり、来週のこの時間は私は事務所に行けないということだ。
ここで初めて私は、問題が思っていた以上に差し迫っていることに思い至った。
――プロデューサーがひとりで事務所にいる時間帯を、私は水曜日のこの時間以外には知らない。
来週のこの時間帯には学校に行っているのだから、プロデューサーに確実に会いに行くためには、今日事務所に行くしかないのだ。
どうする。
行かなきゃ。
行ってどうするんだ。
どんな顔をして、プロデューサーに会いに行けばいいんだ。
別に今日行かなかったとしても、会いに行けなくなるわけじゃないでしょ。
お互いに忘れたあたりで、メールとかで連絡をとればいいんじゃないの。
私の頭はどうにかして逃げる方法を模索していた。
頭を回転させ、自分で自分を納得させる言い訳を作り上げようと必死だった。
一方で、確実にプロデューサーのところに行く機会を失って、彼と私を繋いでいた細い糸が完全に切断されてしまうのを恐れていた。
私は選択をしなければならない。決断を下さなければならない。
事務所の7階に行くか、行かないか――
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